弁理士 張玉瑩
一.制度の枠組み
医薬品特許紛争早期解決メカニズム(医薬品特許リンケージ制度とも称される)は、中国の医薬品知的財産権保護分野における重要な制度革新であり、その核心は、後発医薬品の販売承認審査・承認手続と特許紛争解決手続を連携させ、後発医薬品の販売承認前に潜在的な侵害リスクを解消することにある。2020年の「専利法」第4次改正で新設された第76条の規定により、初めて法律面で同制度が確立された。2021年7月、国家薬品監督管理局、国家知識産権局は共同で「医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)」(以下、「実施弁法」という)を公布し、国家知識産権局はさらに「医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決弁法」(以下、「行政裁決弁法」という)を公布した。最高人民法院も同時に司法解釈を打ち出し、同制度が正式に施行されたことを示している。
「専利法」第76条は、当事者に人民法院への訴訟提起、または国務院専利行政部門への行政裁決請求という、2つの並行する紛争解決ルートを提供している。この「二本立て」の設計は、中国の特許保護制度の特色を体現すると同時に、2つのルートをいかに協調させて運用するかについての継続的な議論を引き起こしている。本稿は、医薬品特許紛争早期解決メカニズムを体系的に紹介し、行政裁決ルートの制度設計と運用実務を重点的に解説するとともに、行政裁決と司法ルートの異同について比較分析することを目的とする。
二.行政裁決ルートの制度要点
①法的根拠
国家知識産権局は2021年7月5日に「行政裁決弁法」を公布し、行政裁決の受理条件、審理手続、法的効力等について体系的な規定を設けた。
「行政裁決弁法」によれば、国家知識産権局は「専利法」第76条にいう行政裁決の処理業務を担当し、専門的に医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決委員会を設置して、関連の裁決業務を組織・展開する。この専門機関の設置は、行政裁決ルートの専門性を重視した位置づけを体現している。
②受理条件と主体適格
「行政裁決弁法」第4条は、行政裁決の請求が7つの条件を満たすべきことを明確に規定している。そのうち注目すべきは第6号である。医薬品販売承認申請者が行政裁決を請求する場合、国家薬品審査評価機関が医薬品販売承認申請を公開した日から45日以内に、特許権者または利害関係者が当該医薬品特許紛争について人民法院に訴訟を提起せず、または行政裁決を請求していないこと。この規定は、後発医薬品申請者による行政裁決請求の「補充的」地位を確立しており、後発医薬品申請者が行政裁決を開始する前提は、特許権者または利害関係者が45日以内に行政裁決または訴訟を提起していないことである。
主体適格の面では、特許権者または利害関係者が後発医薬品の技術的解決策が特許保護範囲に属することの確認を請求する場合、医薬品販売承認申請者を被請求人としなければならない。逆に、医薬品販売承認申請者が保護範囲に属しないことの確認を請求する場合、特許権者を被請求人としなければならない。利害関係者には、関連特許の実施権者または登録された医薬品販売承認取得者が含まれる。
③手続の特徴と証明責任の規則
行政裁決手続には、以下の顕著な特徴がある。
第一に、効率性。行政裁決は複雑な民事訴訟手続を適用せず、起訴、受理、口頭弁論、証拠調べ、上訴といった一連の訴訟プロセスを経る必要がなく、審理期間が比較的短い。
第二に、専門性。行政裁決は技術的背景を持つ特許審査官によって行われ、複雑な技術的解決策の対比に関わる場合に専門的な優位性を持つ。裁決の核心は、後発医薬品の技術的解決策が請求項の保護範囲に属するか否かを確認することにあり、これは本質的に技術的事実認定の問題である。
第三に、証明責任の特殊性。行政裁決手続において、後発医薬品申請者は後発医薬品の技術的解決策を提出する義務を負う。指定された期間内に提出しなかった場合、証明責任に関して不利益な法的結果を負うことになる。後発医薬品申請者の証明は、係争特許のすべての技術的特徴が後発医薬品の技術的解決策によって網羅されているか否かを中心に行われなければならない。
第四に、秘密保持メカニズム。後発医薬品の技術的解決策は、申請者の技術的秘密に関わる可能性がある。行政裁決手続において、国家知識産権局は提出された技術的解決策に対して厳格な秘密保持措置を講じ、事件関係者の範囲を制限し、秘密証拠について専門的な交換を行う。
④裁決の法的効力
行政裁決が下された後、特許権の保護範囲に属するか否かの認定は、薬品監督管理部門が後発医薬品を承認する際の直接の根拠とすることができる。しかし、指摘すべきは、行政裁決自体は終局的な決定ではないことである。当事者が行政裁決に不服である場合、法に基づき人民法院に行政訴訟を提起することができる。注目すべきは、当事者が行政訴訟を提起したとしても、9ヶ月の化学後発医薬品登録承認待機期間はそれによって延長されないことである。この制度設計は、当事者の司法的救済の権利を保障すると同時に、訴訟手続によって後発医薬品の販売が際限なく遅延することを防いでいる。
三.行政裁決と司法ルートの比較
①2つのルートの制度上の位置づけ
行政裁決と司法ルートは、共同で中国の医薬品特許紛争早期解決メカニズムの「二本立て」を構成している。「実施弁法」の規定によれば、特許権者または利害関係者が第4類特許声明に異議がある場合、45日以内に人民法院への訴訟提起または国家知識産権局への行政裁決請求を自ら選択することができる。2つのルートは制度上の位置づけにおいて明らかな差異が存在する。司法ルートは終局的な裁判を重視し、行政裁決は迅速な紛争解決を重視する。
②核心的な差異の比較
第一に、管轄と審理機関が異なる。司法ルートの第一審事件は北京知的財産権法院が集中管轄する。一方、行政裁決は国家知識産権局が専門的に設置した医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決委員会が審理を担当する。
第二に、審理期間が異なる。行政裁決は効率面での優位性が明らかで、平均約6ヶ月で完了する。一方、司法ルートの第一審の審理期間は約6ヶ月、第二審は約3ヶ月で、両審を合わせると通常9ヶ月を超える。この差異は、9ヶ月の待機期間内に有効な裁判を得られるか否かに直接影響する。行政裁決は待機期間内に完了する可能性が高いが、司法判決は待機期間内に終審として確定することは往々にして困難である。
第三に、裁決・判決の終局性が異なる。裁判所の民事判決は終局的な効力を有し、一度確定すれば既判力が生じる。一方、行政裁決は終局性を有さず、当事者は不服があれば行政訴訟を提起することができる。
③2つのルートの協調
「二本立て」の設計は、当事者に選択の余地を与える一方で、手続の協調という課題ももたらしている。「行政裁決弁法」第4条第5号に基づき、人民法院が先に当該医薬品特許紛争を受理していない場合に限り、国家知識産権局がこれを受理する。しかし、「登録を申請する医薬品に関連する特許権紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の規定」は、当事者が、国家知識産権局が既に行政裁決の申請を受理したことを理由に訴訟を受理すべきでないと主張しても、人民法院はこれを支持しないと明確に定めている。これは、行政裁決手続が司法手続の前提条件を構成せず、人民法院は医薬品特許リンケージ民事訴訟を、行政裁決の並行による影響を受けることなく、法に基づき独立して受理することを意味する。
四.結び
医薬品特許紛争早期解決メカニズムは、中国の医薬品知的財産権保護体系における重要な節目である。行政裁決ルートは、同メカニズムの「二本立て」の一つとして、その効率的かつ専門的な特徴により、医薬品特許紛争の早期解決に重要な手段を提供している。統計によれば、2025年までに、国家知識産権局は数百件の医薬品特許行政裁決事件を審理し、実務において代替不可能な役割を果たしている。
同時に、行政裁決と司法ルート間の協調問題は、なお一層の最適化が求められている。2つのルートそれぞれの優位性を維持しつつ、いかにしてより円滑な手続連携メカニズムを構築し、資源の浪費と結果の抵触を避けるかは、将来の制度改善における重要な方向性である。2025年2月に「特許紛争行政裁決及び調停弁法」が施行されるに伴い、医薬品特許紛争早期解決メカニズムの行政裁決制度はさらに規範化、体系化され、中国の医薬品産業の革新的な発展のためにより強力な制度的保障を提供するであろう。
著者紹介
張玉瑩氏は、2015年に青島科技大学化学工程・工芸学科を卒業し、工学学士号を取得。2018年に大連理工大学化学工程学科を卒業し、工学修士号を取得。2022年に泛華偉業に入所。化学工業、材料、有機化学及び医薬品分野の特許代理業務を専門とし、特許発掘、明細書作成、応答、復審、無効審判など、権利化全般にわたるサービスを提供している。化学実験における予測不能な相乗効果を組み合わせ、説得力のある技術的論争ロジックを構築することを得意とし、復審手続においてクライアントの権益を効果的に維持する。新規性調査、無効資料調査及び侵害対比分析を熟練して行い、対象製品について重要な技術的特徴の分解・対比を行い、企業の開発方針及び製品の市場進出のためにデータに裏付けられた意思決定の助言を提供することができる。

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