導入

 

   中国国家知識産権局は2023年12月21日に改訂版「特許審査指南」を公布し、該改訂版審査指南は2024年1月20日に正式に施行された。以下、説明の便宜上、2023年に改訂された審査指南を新しい指南、改正前の審査指南を元の指南と呼ぶ。本稿では、新しい指南第2部分第9章におけるコンピュータプログラムに係る発明特許出願の審査の改訂の主な内容を紹介・解説する。

 

I.コンピュータプログラムに係る発明特許出願の特許適格性の拡充

 

   元の指南では、コンピュータプログラムに係る発明特許出願の請求項は、方法請求項又は該方法を実現する装置などの製品請求項として記載すべきであると規定されている。新しい指南はさらに、方法を実現するための装置に加え、製品請求項のテーマがコンピュータ可読記憶媒体又はコンピュータプログラム製品であってもよいことを指摘している。

 

   新しい指南により、コンピュータプログラム製品の特許適格性が初めて明示的に許可された。ただし、コンピュータプログラム製品はコンピュータプログラムそのものではなく、主にコンピュータプログラムを通じて技術方案を実現するソフトウェア製品として理解されるべきであることに注意すべきである。これは、インターネット技術の発展に伴い、光ディスクや磁気ディスクなどの従来の有形記憶媒体に依存せず、インターネットを介して信号の形で伝送、配布、ダウンロードされるコンピュータソフトウェアが増えていることを考慮したものである。新しい指南では、コンピュータプログラム製品の特許適格性が認められ、コンピュータプログラムの保護が有形の記憶媒体に限定されなくなり、コンピュータプログラムに係る発明特許出願のより包括的な保護が可能となった。

 

   現時点で、コンピュータプログラムの発明特許出願の請求項は、次の4つの方法で作成することができる。

 

   【請求項1】

   画像ノイズの除去方法であって、以下の……ステップを含む、ことを特徴とする画像ノイズの除去方法。

 

   【請求項2】

   メモリと、プロセッサと、メモリに保存されたコンピュータプログラムとを含むコンピュータ装置/機器/システムであって、前記プロセッサは前記コンピュータプログラムを実行し、請求項1に記載の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータ装置/機器/システム。

 

   【請求項3】

   コンピュータプログラムが保存されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行される際、請求項1に記載の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。

 

   【請求項4】

   コンピュータプログラム/指令を含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム/指令がプロセッサによって実行される際、請求項1に記載の方法のステップを実現する、ことを特徴とするコンピュータプログラム製品。

 

II.人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願の適格性審査基準を細分化する

 

   人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願には、アルゴリズム的特徴又はビジネスルール及び方法的特徴が含まれる場合が多く、このような種類の出願について、特許法の第2条第2項(以下、法2.2と略記する)に記載の技術的技術方案に該当するか否かを審査する必要がある。

 

   元の指南では、法2.2に基づいて人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願を審査する際には、請求項の技術方案が特定の技術分野に属し、且つアルゴリズムの処理データが技術的に厳密な意味を持つデータであるか否かを判断する必要があった。これは、人工知能とビッグデータに関する発明特許出願の保護範囲をある程度制限しており、且つ人工知能とビッグデータの中核又は基本アルゴリズムの研究と改善の促進に不利であった。

 

   新しい指南ではさらに、(1)請求項における特定の技術分野に限定されないアルゴリズムの改善のための特許適格性審査基準、及び(2)ビッグデータ処理に係る特許適格性審査基準が追加された。

 

(1)請求項における特定の技術分野を限定しないアルゴリズムの改良のための特許適格性審査基準

   新しい指南の第6.1.2節では、次のように規定されている:請求項の技術方案が深層学習、分類、クラスタリングなどの人工知能、ビッグデータアルゴリズムの改善に関る場合、該アルゴリズムは、コンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関係があり、如何にハードウェアの演算効率や実行効果を向上させる技術的課題を解決でき、データ保存量の削減、データ伝送量の削減、ハードウェアの処理速度の向上等を含め、自然法則に従うコンピュータシステムの内部性能改善の技術的効果が得られる場合、該請求項により限定された技術方案は、特許法の第2条第2項に記載の技術方案に属する。

 

   例えば:

   ディープニューラルネットワークモデルのトレーニング方法であって、

 

   トレーニングデータのサイズが変更された場合、変更されたトレーニングデータに対して、事前に設定された候補トレーニングプラン内での前記変更されたトレーニングデータのトレーニング時間消費量をそれぞれ計算し、事前に設定された候補トレーニングプランからトレーニング時間消費量が最も小さいトレーニングプランを選択して前記変更されたトレーニングデータの最適なトレーニングプランとすることと、

 

   前記候補トレーニングプランは、シングルプロセッサトレーニングプランとデータ並行に基づくマルチプロセッサトレーニングプランとを含むことと、

 

   前記変更されたトレーニングデータを、前記最適なトレーニングプランでモデルトレーニングを行うことと、を含むディープニューラルネットワークモデルのトレーニング方法。

 

   分析:該請求項は、処理されるトレーニングデータを、特定の技術分野で厳密な技術的意味を持つデータに限定していない。ただし、トレーニング速度が遅いという問題を解決するために、該モデルトレーニング方法は、サイズの異なるトレーニングデータに対して、処理効率の異なるシングルプロセッサトレーニングプラン又はマルチプロセッサトレーニングプランを選択し、該モデルトレーニング方法は、コンピュータシステムの内部構造と特定の技術的相関関係があり、トレーニングプロセスでのハードウェアの実行効率を向上させ、それによって自然法則に従うコンピュータシステム内部の性能向上の技術的効果が得られる。したがって、該発明特許出願の技術方案は、特許法の第2条第2項に規定する技術方案に属し、特許適格性を有する。

 

(2)ビッグデータ処理に係る特許適格性審査基準

   新しい指南の第6.1.2節では、また、次のように規定されている:請求項の技術方案が特定の応用分野のビッグデータを処理する場合、分類、クラスタリング、回帰分析、ニューラルネットワークなどを利用してデータ内の自然法則に従う内的相関関係をマイニングし、これに基づいて、特定の応用分野におけるビッグデータ分析の信頼性又は精度を向上させるという技術的課題を解決し、対応する技術的効果が得られる場合、請求項により限定された技術方案は、特許法の第2条第2項に記載の技術方案に属する。

 

   正例:

   電子クーポンの利用傾向の分析方法であって、

 

   電子クーポンの情報に基づいて電子クーポンを分類し、よって電子クーポンの種類を取得することと、

 

   電子クーポンの適用シナリオに基づいてユーザサンプルデータを取得することと、

 

   ウェブページの閲覧、キーワードの検索、フォロワーの追加、ショッピングカートへの追加、電子クーポンの購入・利用を含むユーザの行動に基づいて、ユーザの行動特徴を前記ユーザサンプルデータから抽出することと、

   ユーザサンプルデータをトレーニングサンプルとして、ユーザの行動特徴を属性ラベルとして使用し、さまざまな種類の電子クーポンに対して電子クーポンの利用傾向の識別モデルをトレーニングすることと、

   トレーニングされた電子クーポンの利用傾向の識別モデルによって電子クーポンの利用確率を予測し、電子クーポンの種類ごとにユーザの利用傾向を取得することと、を含むことを特徴とする電子クーポンの利用傾向の分析方法。

 

   分析:ビッグデータの処理と分析の分野では、単一ユーザの個々の行動にはある程度の主観性とランダム性があるが、グループユーザの行動は、規則的であることが多く、異なる行動間の相関関係は、特定の自然法則を体現し、適合することができる。したがって、グループユーザのさまざまな行動間の相関関係をマイニングするための手段も技術方案を構成する。該技術方案は、電子クーポンの利用傾向の分析手法に関し、該方法は電子クーポンに関連するビッグデータを処理するものであり、電子クーポンを分類し、サンプルデータを取得し、行動特徴を決定し、モデルトレーニングを行うことで、ユーザの行動特徴と電子クーポンの利用傾向との間の内的相関関係をマイニングし、閲覧時間が長く、検索回数が多く、電子クーポンの利用頻度が高いなどの行動特徴は、対応する種類の電子クーポンを利用する傾向が高いことを示し、この内的相関関係は、自然法則に合致し、これにより、電子クーポンに対するユーザの利用傾向の分析精度をいかに向上させるかという技術的課題を解決し、対応する技術的効果が得られる。したがって、該発明特許出願の技術方案は、特許法の第2条第2項に規定する技術方案に属し、特許適格性を有する。

 

   反例:

   金融商品の価格予測方法であって、

 

   金融商品のN+1個の日間指標履歴価格データを使用して、ニューラルネットワークモデルをトレーニングして価格予測モデルを取得し、そのうち、最初のN個の日間指標履歴価格データはサンプル入力データとして使用され、最後の1個の日間指標履歴データは、サンプル結果データとして使用されることと、

 

   前記価格予測モデルと最近のN個の日間指標履歴価格データを使用して、将来の金融商品の価格データを予測することと、を含む、ことを特徴とする金融商品の価格予測方法。

 

   分析:該技術方案は、金融商品の価格予測手法に関し、該方法は、金融商品に関連するビッグデータを処理するものであり、ニューラルネットワークモデルを利用して、過去の期間の金融商品の価格データと将来の価格データとの間の内的相関関係をマイニングするが、金融商品の価格動向は経済法則に従い、履歴価格の高低が将来の価格動向を決定するものではないため、金融商品の履歴価格データと将来の価格データとの間には自然法則に従う内的相関関係がなく、該技術方案が解決したいのは、金融商品の価格をどのように予測するかという問題であり、技術的な問題ではなく、それに対応して得られる効果も技術的な効果ではない。したがって、発明特許出願は、特許法の第2条第2項に規定する技術方案に属し、特許適格性を有しない。

 

   元の指南と比較すると、新しい指南では請求項の方案を特定の技術分野や厳密な技術的意味を持つデータに限定しなくなり、ビッグデータ、人工知能に係る発明特許出願の特許適格性審査基準を緩和していることがわかる。現時点で、特許法の第2条第2項の審査を満たすために、人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願について、次のいずれかの角度から作成又は答弁することができる。

 

   *請求項のアルゴリズムは、特定の技術分野に関し、処理されるデータは、技術分野において厳密に技術的意味を有するデータである。

   *請求項のアルゴリズムは、コンピュータシステムの内部性能の向上に関する。

   *請求項のアルゴリズムがマイニングするのは、データの自然法則に従う内的相関関係である。

 

III.人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願の進歩性審査基準の改善

 

   技術的特徴とアルゴリズム的特徴又はビジネスルールと方法的特徴の両方を含む人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願に対して進歩性審査を行う場合、全体的に考慮する原則に従い、つまり、技術的特徴と機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つアルゴリズム特徴又はビジネスルールと方法的特徴及び前記技術的特徴を全体として考慮すべきである。「機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つ」とは、アルゴリズム特徴又はビジネスルールと方法的特徴及び技術的特徴が密接に結合され、ある技術的問題を解決するための技術的手段を構成し、対応する技術的効果が得られことを意味する。

 

   元の指南では、「機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つ」と判断する方法について、次のように規定されている。

 

1)請求項におけるアルゴリズムが特定の技術分野に適用され、特定の技術的問題を解決できる場合、該アルゴリズム特徴と技術的特徴は、機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つと考えることができる。

 

2)請求項におけるビジネスルールと方法的特徴の実施に技術的手段の調整又は改善を必要とする場合、該アルゴリズム特徴と技術的特徴は機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つと考えることができる。

 

新しい指南では、請求項の方案を特定の技術分野に限定せず、元の指南の上記2つの規定に加えて、「機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つ」と判断する方法について、以下の新たな規定を追加する:

 

3)請求項におけるアルゴリズムがコンピュータシステムの内部構造と特定の技術的関係がある場合、コンピュータシステムの内部性能が向上し、データ保存量の削減、データ伝送量の削減、ハードウェアの処理速度の向上などを含むハードウェアの演算効率や実行効果が向上する場合、該アルゴリズム特徴と技術的特徴は、機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つと考えることができる。

 

   例えば:

   ニューラルネットワークパラメータを適応させるための方法であって、

 

   ニューラルネットワークの少なくとも1層のうちの各層の重みパラメータに対して、複数の次元を選択することと、

 

   前記複数の次元の各次元における前記重みパラメータのサイズを決定することと、

 

   ニューラルネットワーク計算をサポートするハードウェアの使用率に基づいて、前記複数の次元の各次元における前記重みパラメータの目標サイズの候補値のセットを決定することと、

 

   前記候補値セット内において対応する次元のサイズ以上であるすべての候補値サブセットを選択し、前記候補値サブセットのうちの最小値が対応する次元上のターゲットサイズとして決定することと、

 

   複数の次元のうちの少なくとも1つの次元上の前記重みパラメータのサイズが、対応する次元上のターゲットサイズより小さい場合、前記次元に前記重みパラメータを充填し、各次元上の充填された後に取得された重みパラメータが対応する次元上のターゲットサイズと等しくなるようにすることと、を含む、ことを特徴とするニューラルネットワークパラメータを適応させる方法。

 

   分析:上記請求項の方案は、ニューラルネットワークパラメータを適応させるための方法に関し、規範的な形式を持つニューラルネットワークパラメータを取得し、ニューラルネットワーク内の演算をコンピューティングアーキテクチャによってサポートされる演算にマッピングし、ニューラルネットワーク関連のハードウェア設計と実現を簡素化する。

 

   引用文献1は、ニューラルネットワークプロセッサ向けの設計方法を開示し、該方法は、ニューラルネットワークのトポロジ、ニューラルネットワーク層の各層の重みパラメータや次元パラメータ、及びハードウェア資源制約パラメータなどに基づいて、構築されたニューラルネットワークコンポーネントライブラリからユニットライブラリを検索し、且つユニットライブラリに基づいてニューラルネットワークモデルに対応するニューラルネットワークプロセッサのハードウェア記述言語コードを生成し、さらに前記ハードウェア記述言語コードを前記ニューラルネットワークプロセッサのハードウェア回路に変換する。そのうち、ニューラルネットワークの特徴データと重みデータを適切なデータブロックに分割して集中的に保存してアクセスする。

 

   上記請求項の方案と引用文献1との違いは、各次元上のニューラルネットワークの各層の重みパラメータのサイズを決定し、ハードウェアの使用率に基づいて、各次元上の重みパラメータの目標サイズの候補値セットを決定し、対応する次元上の候補値のサブセットを選択し、その中の最小値を目標サイズとして決定し、少なくとも1つの次元上の重みパラメータのサイズが目標サイズより小さい場合、前記次元上の重みパラメータを充填する点である。

 

   上記の請求項に対応する出願書類によれば、該方案は、重みパラメータのサイズを目標サイズと等しくなるように充填し、ニューラルネットワークをサポートするハードウェアがニューラルネットワークのデータを演算する時、ハードウェアが前記データを効率的に処理でき、該方案におけるアルゴリズムがハードウェアの演算効率を向上させる。したがって、上記ニューラルネットワークパラメータを適応させるためのアルゴリズムの特徴と技術的特徴は、機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つ。引用文献1と比較すると、ハードウェアがいかにニューラルネットワークにおける演算を効率的に実行することが、発明が実際に解決する技術的課題であると決定することができる。ニューラルネットワークパラメータを適応させることによりハードウェアの演算効率を向上させる上記の内容は、他の引用文献に開示されておらず、本分野の常識でもなく、既存の技術には、全体として、上記引用文献1を改善して発明特許出願を取得する技術方案の示唆がないので、請求された発明の技術方案は進歩性を備えている。

 

   この時点で、技術的特徴とアルゴリズム特徴、又はビジネスルールと方法的特徴の両方を含む人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願を作成す又は審査意見に応答する過程で、出願人はアルゴリズム特徴又はビジネスルールと方法的特徴及び技術的特徴の間に機能的な相互サポートと相互作用の関係が存在しすることを以下のいずれかの面から体現し、進歩性をより良くサポートすることができる:

 

   *請求項のアルゴリズムは、特定の技術分野に適用され、特定の技術的問題を解決する。

   *請求項のアルゴリズムは、コンピュータシステムの内部性能の向上を実現する。

   *請求項におけるビジネスルール及び方法的特徴の実施には、技術的手段の調整又は改善を必要とする。

 

   さらに、人工知能、ビッグデータなどの分野では、かなりの数の発明の出発点がユーザ体験の向上であることであり、新しい指南では、ユーザ体験の向上に関わる進歩性審査基準も明確に追加されており、即ち、発明特許出願の技術方案は、ユーザ体験の向上をもたらすことができ、且つ該ユーザ体験の向上は、技術的特徴、又は技術的特徴及びそれと機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つアルゴリズム特徴又はビジネスルール、方法的特徴によってもたらされ、又は生み出されるものであれば、進歩性審査の時に考慮されるべきである。

 

   例えば:

 

   ユーザに一括で集荷するように通知することで、物流配送効率を向上させる物流配送方法であって、

 

   配達員がユーザに集荷を通知する必要がある場合、配達員は、携帯型物流端末を介して荷物が到着したという通知をサーバに伝送することと、

 

   サーバは、配達員の配達範囲内のすべての注文ユーザを一括で通知することと、

 

   通知を受け取った注文ユーザは、通知情報に基づいて集荷を完了することと、を含み、

 

   そのうち、サーバによる一括通知の特定の実現方式は、サーバが物流端末から伝送される到着通知に携帯される配達員ID、物流端末の現在位置及び対応する配送範囲に基づいて、該配達員IDに対応する、前記物流端末の現在位置を中心とする配送距離範囲内のすべてのターゲット注文情報を決定し、通知情報をすべてのターゲット注文情報内の注文ユーザアカウントに対応する注文ユーザ端末にプッシュすることである、物流配送方法。

 

   分析:引用文献1には、物流端末が配送注文書上のバーコードをスキャンし、且つスキャン情報をサーバに伝送して荷物到着を通知し、サーバがスキャン情報内の注文ユーザ情報を取得し、そして、注文ユーザに通知を伝送し、通知を受け取った注文ユーザは、通知情報に基づいて集荷を完了する物流配送方法が開示される。

 

   上記請求項の技術方案と引用文献1との違いは、注文の到着をユーザに一括して通知する点であり、一括通知を実現するために、該技術方案は、サーバと物流端末とユーザとの間のデータアーキテクチャ及びデータ通信方法がそれに応じて調整されており、集荷通知ルールと特定の一括通知実現方法は、機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つ。引用文献1と比較すると、いかに注文到着通知効率を向上させて物流配送効率を向上させるのかが、発明が実際に解決する技術的課題である。これにより、配達担当者の操作がより便利になり、注文ユーザがよりタイムリーに到着通知を受け取ることができ、集荷当事者と配達当事者の両方のユーザ体験が向上する。本出願の技術方案は、注文到着通知の効率を向上させて荷物配送効率を向上させる技術的効率及びユーザ体験を得ることができ、このユーザ体験の向上は、機能的に相互にサポートし、相互作用関係を持つデータアーキテクチャとデータ通信方式の調整及び集荷通知ルールや特定の一括通知の実現方法によって共同でもたらされるものである。既存の技術には、発明特許出願の技術方案を得るために上記の引用文献1を改良する技術的示唆がないので、該技術方案は進歩性を備えている。

 

   新しい指南では、人工知能、ビッグデータに係る発明特許出願の進歩性審査において、ユーザ体験の向上を技術的効果として考慮できることを明確にしている。ただし、ユーザ体験の向上は、個人差ではなく、グループユーザの感情に基づくものであるべきであり、且つユーザ体験の向上は、技術改善による技術的効果によって客観的にもたらされるユーザの感知上の向上であるべきであることに注意すべきである。

 

   まとめ

 

   上述の特許審査指南の最新の改訂から、中国国家知識産権局が、人工知能、「インターネット+」、ビッグデータ及びブロックチェーンなどの新業態、新分野にアルゴリズムとビジネスルールを含む特許保護操作により明確で規範的な指南を提供し、様々なイノベーション保護へのニーズを満たすようにしていることがわかる。

 

   参照文献:

 

   『特許審査指南』(本文に引用された例は、いずれも新たに改訂された『特許審査指南』第2部分第9章6.2節に提供された審査例に由来する)

 

   『<特許審査指南>(2023)改訂解読』

 

 

 

蘇暁麗

2003年、山東師範大学から卒業、工学修士学位を取得。同年、中国科学院コンピューター技術研究所に入り、博士課程で研究作業に従事た。コンピューター、通信等の分野において、豊富な科学研究経験を持ち、国家863プロジェクト、国家自然科学基金等重大プロジェクトに参与したことがあり、多くの論文を発表。2010年、北京パナウェル特許事務所に入所。

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