王勇 - パートナー、弁護士、弁理士

 

   第13期全国人民代表大会常務委員会が2020年10月17日に専利法第4次改正案を可決して以来、3年にわたり、それに付随する専利法施行細則(以下「施行細則」)の改正が、ようやく2023年12月11日に公布され、2024年1月20日に施行される予定である。新たな施行細則は合計13章と149条からなり、審査原則、審査制度、専利の施行と運用、専利権の保護等の様々な面で複数の条項を含む多くの改正が行われた。本文では、意匠出願、優先権規定、専利保護存続期間補償規定等の比較的に重要な制度の改正を手がかりとし、関係実務者が新たな施行細則を学ぶ際の参考となるように、関連する条項の改正を解釈する。

 

一. 意匠出願に関する改正

 

   意匠出願について、現行専利法のハイライトの一つは、部分意匠制度の導入、意匠の国内優先権の追加、意匠専利権の保護期間の15年間への延長等である。その他、中国が2022年に既にハーグ協定に参加しているため、新たな施行細則では、部分意匠の新たな制度を具体的に規定し、且つ第12章ではハーグ協定を通じて意匠を出願するための審査規則を特別に規定している。

 

   1. 部分意匠について:新たな施行細則の第30条と第31条では、それぞれ意匠出願における図面又は写真の提出要件及び簡単な説明の要件を規定している。まず、出願人が部分意匠を出願する場合でも、製品の全体図を提出し、且つ点線と実線の組み合わせ等で保護を求める部分の内容を表示すべきである。次に、点線と実線の組み合わせで保護内容を表示することできない部分意匠については、出願人は、保護を主張する部分を簡単な説明に明らかに記載すべきである。

 

   2. 意匠の国内優先権について:現行専利法では、意匠の国内優先権の提出期間は中国での最初の特許出願日から6ヶ月以内、副本の提出期間は出願後から3ヶ月以内と規定されている。新たな施行細則の第35条では、意匠の国内優先権の先行出願は、意匠出願であっても、発明又は実用新案出願であってもよく、発明又は実用新案出願の図面は、意匠専利の優先権主張の根拠として使用することができると規定されている。先行出願が意匠出願の場合には、先行出願は後願の出願日から取り下げられたものとみなされるが、先行出願が発明又は実用新案出願の場合には、先行の発明又は実用新案出願は、後願の意匠出願のために取り下げられたものとみなされない。この例外の理由は、後願の意匠と先行の発明又は実用新案との間で権利付与が重複する可能性がないため、出願人が先行出願を放棄する必要がないからである。

 

   3. 意匠の国際出願に関する特別規定:ハーグ協定とよりよく連携するために、新たな施行細則の第12章第136条から第144条まで、意匠の国際出願の法的地位、国内と国際を連携する審査手続きが規定されている。新たな施行細則では、ハーグ協定に従って国際登録日を確定し、且つ中国を指定した意匠の国際出願については、この国際登録日を国内出願の出願日とみなすと規定されている。国際事務局が意匠の国際出願を公布した後、国務院専利行政部門が意匠の国際出願を審査し、審査の結果、拒絶理由が見つからない場合には、権利付与の決定を下す。権利付与の有無に関わらず、審査決定を国際事務局に通知する。その他、新たな施行細則では、優先権要件、新規性の猶予期間、分割出願、設計ポイントの簡単な説明、権利変更手続き等の面で具体的な要件が規定し、優先権、新規性の猶予期間、分割出願等の面で意匠の国内出願制度との連携等について規定している。

 

二. 優先権規定の改正

 

   今回の施行細則の改正前の優先権規定では、出願人が優先期間を徒過して後願を提出した場合、優先権を主張することも、優先権を回復することもできず、優先権主張を追加又は訂正する機会も与えられなかった。このような規定は出願人にとってあまり有利ではなく、現在の国際条約の規定とも一致していない。それを背景に、新たな施行細則では、優先権制度の規定が改善された。

 

   1. 優先権の回復:新たな施行細則の第36条では、上記延滞期間に対する救済方法が提供される。発明専利と実用新案専利については、優先期間を超えて後願を提出した場合でも、優先日から14ヶ月以内に出願すれば、出願人は優先権を主張することができる。ただし、優先日から12ヶ月目から14ヶ月目までの間に優先権回復を請求する場合には、正当な理由が必要であり、且つ優先権回復料金を支払うべきである。

 

   2. 優先権の追加又は正:新たな施行細則の改正前に優先権を主張する場合には、出願人は専利出願を提出する際に主張するすべての優先権を声明すべき、且つ専利出願を提出した後、優先権主張を追加又は訂正することはできなかった。新たな施行細則では、優先権を追加又は訂正する機会が提供される。新たな施行細則の第37条によれば、発明又は実用新案専利の出願人が専利出願を提出する際に優先権を主張した場合に、たとえ専利出願を提出する際に1つ以上の優先権の記入が欠落したり、誤って記入されたとしても、出願人は優先日から16ヶ月以内、又は出願日から4ヶ月以内に優先権の追加又は改正を請求することができる。しかし、意匠専利については、上記優先権の追加又は改正に関する条項は適用されない。

 

   3. 援用・付加制度:「援用・付加」制度とは、現在の専利出願の出願日を維持したまま、現在の専利出願に優先権書類の内容を追加することを指す。今回の施行細則の改正前、中国は援用・付加を認めておらず、出願人が出願を提出する際に一部の内容が欠落した場合には、優先権書類にこれらの内容が既に記載されていたとしても、欠落した内容を追加することはできなかった。新たな施行細則の第45条では、出願人が出願を提出する際に権利要求書(特許請求の範囲)、明細書又は権利要求書、明細書の一部が欠落したり誤って提出された場合には、この出願が優先権を主張し、且つ優先権基礎出願に上記欠落した内容が記載されている場合に限り、出願人は、専利出願の提出日から2ヶ月以内、又は国務院専利行政部門が指定した期間内に、優先権基礎出願を援用する方法でこれらの内容を追加することができ、且つこのような追加により専利出願の出願日が延期されることはない。この規定により、出願人は、後願の関連する内容を改善するように先行出願を利用することが容易になり、後願における過失又は欠落を補うことができる。

 

   4. PCT国際出願の優先権について:PCT国際出願については、中国は指定国として優先権の回復制度を保留していた。しかし、今回の施行細則の改正後、通常の国内出願が今回新規追加された第36条に基づいて優先権回復を請求することができるため、これに対応し、PCT出願についても優先権回復を請求することができるようになった。今回の施行細則で新規追加された第128条では、これについて規定している。第128条の規定によれば、PCT国際出願の受理官庁が既に優先権を回復した場合には、このPCT国際出願が国内段階に移入した後、再度優先権回復手続きを行う必要はなく、国家知識産権局はこの回復手続きを承認する。出願人が国際段階では優先権回復を請求しなかった場合、又は受理官庁がその優先権回復請求を承認しなかった場合に、出願人は、このPCT国際出願が国内段階に移入してから2ヶ月以内に国家知識産権局に優先権回復を請求することができる。

 

三. 専利権存続期間補償の規定について

 

   2020年に改正された専利法の第42条では、専利権存続期間補償が適用可能な2つの状況について規定されている。1)発明専利権存続期間補償。すなわち、審査による発明専利の付与遅延に対する期間補償である。発明専利の出願日から4年間が満了し、且つ実体審査の請求日から3年間が満了した後に発明専利権が付与された場合、専利権者の請求に応じ、発明専利の付与手続きにおける不当な遅延に対して専利権存続期間補償を提供する。2)医薬品の専利権存続期間補償。すなわち、新薬の発売の審査及び承認にかかる時間を補償するためであり、中国での販売が承認された新薬に関連する発明専利については、専利権者の請求に応じて専利権存続期間補償が提供され、補償期間は5年間を超えてはならず、新薬の発売承認後の有効専利権存続期間は総じて14年間を超えてはならない。

 

   今回の施行細則の改正では、期間補償の上記2つの状況の運用細則が具体的に規定され、「第5章 専利権存続期間補償」が追加され、このうち、第77条から第79条までは発明の専利権存続期間補償に関するものであり、第80条から84条までは医薬品の専利権存続期間補償に関するものである。

 

   1. 発明の専利権存続期間補償

 

   新たな施行細則では、専利権者が期間補償請求を提出する期間は専利権付与の公告日から3ヶ月以内であることが明らかにされ、期間補償の計算方法と期間補償が適用されない状況が明らかにされている。期間補償は日数で計算され、補償日数は、発明専利の付与手続きにおける不当な遅延の実際の日数である。具体的には、補償日数の計算は、発明専利の出願日から4年間が満了し、且つ実体審査の請求日から3年間が満了してから、専利権付与の公告日までの間の日数から、合理的な遅延の日数及び出願人による不当な遅延の日数を差し引いたものである。合理的な遅延には、少なくとも1)出願人が復審手続きにおいて請求項を補正したため拒絶査定が取り消された場合の復査手続きによる遅延、2)所有権紛争又は財産保全のために審査手続きが中断されたことにより生じた遅延、が含まれる。出願人による不当な遅延には、少なくとも1)応答期限の延期による遅延、2)遅延審査請求による遅延、3)援用・付加において書類の追加による遅延、が含まれる。その他、発明と実用新案を同日出願する場合については、発明専利の存続期間補償の規定が適用されない。


   2. 医薬品の専利権存続期間補償

 

   改正された施行細則では、第80条から第84条を追加し、医薬品の専利権存続期間補償に関する規定が細分化され、主に以下のいくつかに関する。(1)専利法における「新薬に関連する発明専利」とは、規定に適合する新薬製品の専利、製造方法の専利、医薬用途の専利を指す。(2)補償請求の提出期間は、当該新薬が中国で販売承認を取得してから3ヶ月以内であり、国務院専利行政部門に請求しなければならず、対応する要件は以下のとおりである。(一)新薬に同時に複数の専利が関わる場合、専利権者は、そのうちの1つの専利についてのみ専利権存続期間補償を請求することができ、(二)1つの専利が同時に複数の新薬に関わる場合、1つの新薬についてのみこの専利の専利権存続期間補償請求を提出することができ、(三)専利が有効期間内であり、且つ新薬に関連する発明専利権存続期間補償をまだ取得しておらず。(3)規定された補償期間の計算方法は、「専利出願日から新薬の中国での販売承認日までの間の日数から5年間を差し引いた日数であり、専利法第42条第3項の規定に準拠する」。なお、第82条に従って計算された補償期間は、専利法の第42条第3項に規定された最長期間(即ち、補償期間は5年間を超えてはならず、新薬の販売承認後の有効専利権存続期間は総じて14年間を超えてはないない)を超えてはならず、規定された期間を超えた場合には、規定された最長期間に基づいて補償すべきである。(4)期間補償が適用される専利の保護範囲は、新薬及びその承認された適応症に関連する技術案に限定される。

 

   3. 2種類の期間補償制度の簡単な比較

 

   以上の紹介からわかるように、新たな施行細則の規定によれば、上記発明の専利権存続期間補償制度と医薬品の専利権存続期間補償制度はそれぞれ特徴を有しているが、理解を容易にするために、以下の表で両者を比較してみる。

 

  発明の専利権存続期間補償 医薬品の専利権存続期間補償
適用範囲 各種の発明専利 販売が承認されて規定に適合する新薬製品の専利、製造方法の専利、医薬用途の専利
適用理由 発明専利の付与手続きにおける不当な遅延 新薬の発売の審査及び承認にかかる時間
請求のタイミング 専利権付与の公告日から3ヶ月以内に国務院専利行政部門に請求すべきである 新薬が中国で販売承認を取得した日から3ヶ月以内に国務院専利行政部門に請求する
補償の計算方法 発明専利の出願日から4年間が満了し、且つ実体審査の請求日から3年間が満了してから専利権付与の公示日までの間の日数から、合理的な遅延日数と出願人による不当な遅延の日数を差し引いたものである 補償期間は、専利出願日から新薬が中国で販売承認を取得する日までの間の日数から5年間を差し引いた日数であるが、補償期間は5年間を超えてはならず、新薬の販売承認後の有効専利権存続期間は総じて14年間を超えてはならない

 

 

四. 他の重要な条項の改正

 

   1. 電子出願の書類の提出日及び交付日

 

   新たな施行細則の第4条では、電子形式で提出される各種書類の提出日は、国務院専利行政部門が指定する特定の電子システムが受け取った日付とすると規定されている。これに応じ、電子形式で交付された各種書類の交付日は、当事者が承認した電子システムの受付日となっている。

 

   2. 明らかに創造性を喪失している実用新案、意匠出願の審査

 

   新たな施行細則の第50条では、実用新案、意匠出願の予備審査の内容が規定されており、元の予備審査の内容に加え、実用新案出願に明らかに進歩性を欠くかどうか、意匠出願が「専利権付与の対象となる意匠は、従来意匠又は従来意匠の特徴の組み合わせと比べ、著しく異なるものであること」に明らかに適合していないかどうかという審査内容を追加している。したがって、新たな施行細則が発効後、「明らかに進歩性を欠くかどうか」が審査内容とし、国家知識産権局は従来技術及び従来意匠の検索作業を強化し、且つ専利法の第22条第3項又は第23条第2項の規定に従って審査意見通知書を発行することができる。

 

   3. 遅延審査制度の確立

 

   新たな施行細則の第56条第2項では、出願人は、専利出願に対して遅延審査請求を提出することができ、発明、実用新案、意匠の3種類の専利出願に対していずれも遅延審査請求を提出することができると規定されている。

 

   4. 復審手続きにおける審査方法の改正

 

   元の施行細則の第62条の規定によれば、復審請求が受理された後、元の審査部門より前置審査を行い前置審査意見を発行すべきであると規定されている。元の審査部門が拒絶査定を固執する場合には、復審・無効審査部門が合議審査を行うことになるが、元の審査部門が拒絶査定を取り下げた場合には、それ以上の合議審査の必要はない。新たな施行細則では、上記第62条の規定全体を削除し、前置審査の規定を審査指南に移した。新たな審査指南によっても、復審請求が受理された後に前置審査が必要な手続きとなるが、前置審査手続きは元の審査部門が行うとは限らない。

 

   その他、新たな施行細則の第67条第1項では、「専利法と本細則の関連規定に明らかに違反している」状況の審査に関する規定が追加されている。新たな審査指南の関連内容によると、前置審査及び合議審査における審査の内容は復審請求の内容に限定されず、専利出願が明らかに関連規定に違反している状況も含める。これは、復審手続きにおける職権による審査に法的根拠を与え、同時に、「拒絶査定を維持する」という復審の決定が「復審請求を拒絶する」という文言に改正された。

 

   5. 無効審判手続きにおける補正請求項の公告仕組みの追加

 

   新たな施行細則の第73条第1項によると、無効において、専利権者が無効審判請求への抗弁時に権利要求書を補正し、且つ国務院専利行政部門が、当該補正された権利要求書に基づいて専利権の有効を維持するか、又は専利権の一部を無効とする決定を下した場合、補正された権利要求書を再度公告すべきである。

 

   6. 再審査請求期間の遅延に関する権利回復

 

   今回改正された施行細則の第6条では、復審請求期間の徒過に関する権利回復が規定されている。改正後の第6条第2項によれば、復審査請求期間を徒過した場合には、復審請求期間が満了する日から2ヶ月以内に権利回復を請求することができる。改正前の施行細則によれば、権利回復請求の期間は、権利喪失通知書を受領した日から2ヶ月以内とされているが、復審請求期間を徒過しても、権利喪失通知書を受領しないため、復審請求期間の回復は施行細則の規定に従って運用することができない。したがって、「復審請求期間が満了する日から2ヶ月以内」に権利回復を請求できるとした。

 

   7. 新規性を喪失しない猶予期間

 

   今回の細則の改正により、新規性を喪失しない猶予期間の学術会議又は技術会議の範囲が拡大され、「学術会議又は技術会議」の範囲が「国務院関係管轄当局が承認した国際機関が開催する学術会議又は技術会議」に拡大される。したがって、IEEEなどの国際機関が開催する会議も、新規性を喪失しない猶予期間に適用する会議の範囲に含まれる可能性がある。その他、本条第3項の改正により、証明書類の出所要件が削除され、出願人は、発明・創造が既に展示又は公開されたこと、及び展示又は公開の日付を証明することができる証明資料を提供すればよい。つまり、出願人の立証要件が緩和された。

 

 

 

著者紹介:

 

   王勇。1991年に上海華東師範大学のコンピューターサイエンス学部を卒業し、1994年に中国科学院計算技術研究所で修士号を取得し、2005年に中国人民大学で法学の修士号を取得した。1994年から2006年まで中国特許代理(香港)有限公司で弁理士として勤務し、2007年に、北京泛華偉業知識産権代理有限公司にシニアパートナーとして入社した。

 

   中華全国弁理士協会の会員、中華人民共和国弁理士協会・電子情報技術専門委員会の会員、国際ライセンス協会(LES)中国支部の会員、国際知的財産保護協会(AIPPI)中国支部の会員、国際知的財産弁護士連盟(FICPI)中国支部の会員である。中華全国弁理士協会弁理士研修講師である。

 

   事業分野は、主にコンピュータハードウェア、コンピュータソフトウェア、通信技術、半導体デバイス及び製造工程、オートマチックコントロール、家電製品等の分野に関する。長年にわたり、知的財産保護に関するコンサルティング、代理業務に従事し、国内外の出願人からの数千件の専利出願を代理し、専利出願書類の作成、審査意見への応答、専利出願の復審、専利無効審判、専利行政訴訟、侵害訴訟、集積回路レイアウトの保護及びコンピュータソフトウェアの保護等の面で豊富な経験を持っている。経験豊富な弁護士・弁理士として、世界中の有名な多国籍企業が関わる数十件の専利案件で指導者と主任弁護士として、訴訟に参加した。

 

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