弁理士 秦青

 

   特許法第40条の規定に基づき、特許庁は実用新案の特許出願を受理し、審査し、初歩審査で拒絶すべき理由が見つからない場合、実用新案の特許権を付与する決定を下す。従って、実用新案特許は、実質的な審査を行う必要がなく、その審査過程において、進歩性の問題よりは、保護対象の問題に直面することが多い。

 

   科学技術の発展と進歩に伴い、電気学分野において益々多くの発明創造は、コンピュータプログラムなどのソフトウェア特徴によって実現する必要がある。最近の審査実践において、審査官は、このようにコンピュータプログラムを利用して定義されたこのような技術的特徴が実用新案特許による保護の対象に該当しないと考えられるケースが多いことに気づいた。本文では、コンピュータプログラム特徴を含む技術案を特許請求する実用新案の特許出願及び答弁をどのように行うべきかについて検討する。

 

 

   一.現行特許法及び審査指南の関連規定

 

   『特許法』の第2条第3項の規定によれば、実用新案とは、製品の形状、構造又はそれらの組合せに対して提案された実用に適する新たな技術案を指す。

 

『特許審査指南』の第1部第2章第6.1節には、以下のように提案される:

 

   実用新案特許は製品のみを保護し、前記製品とは、産業上の方法で製造され、確定した形状、構造を有し、一定の空間を占める実体でなければならない。全ての方法及び人的に製造されていない自然に存在する物質は、実用新案特許による保護の対象に該当しない。上記方法は、製品の製造方法、使用方法、通信方法、処理方法、コンピュータプログラム及び製品を特定な用途に使うことなどを含む。

 

   発明創造には、製品の形状・構造に対する改善を含むとともに、当該製品を生産するための専用方法、プロセス又は当該製品を構成する材料そのものなどについての改善を含む可能性もある。しかし、実用新案特許は製品の形状、構造のみに対して行われる改善の技術案のみを保護するものである。

 

   請求項において既知の方法の名称を利用して製品の形状・構造を限定することができるが、方法のステップ、プロセス条件などを含めてはならない。

 

   請求項において形状・構造の特徴だけでなく、方法そのものに対する改善も含まれる場合、例えば、製品の製造方法、使用方法又はコンピュータプログラムを限定する技術的特徴を含む場合は、実用新案特許による保護の対象に該当しない。

 

   上記特許法及び審査指南の関連規定から分かるように、実用新案特許は製品のみを保護する。最近の特許審査実践においては、関連要求が更に強められ、請求項において形状、構造の特徴を含むだけでなく、方法の特徴も含む場合、方法そのものを改善しないことを確保し、又は当該方法特徴が既知の技術に属することを証明しなければならない。以下、具体的な案件を挙げ詳しく説明する。

 

   二.案件分析

 

案件1:

 

   案件1において、請求項1には、「前記マルチモーダル生体情報収集装置により収集された顔画像、虹彩画像及び網膜画像のうちの少なくとも1つの画像を受信し、前記画像に基づいてそれとマッチングする身分情報を決定するために用いられる処理装置」という特徴が含まれている。

 

   拒絶理由通知書において、審査官は、上記特徴がコンピュータプログラムに関し、技術問題を解決するために、当該コンピュータプログラムに依存する必要があり、明細書に記載の内容から分かるように、当該技術案の改善点がコンピュータプログラムにあり、即ち、実質的に方法そのものに対する改善を含むため、特許法第2条第3項に規定の実用新案の保護対象に該当しない、と示している。審査官との更なるコミュニケーションにおいて、審査官は、請求項の技術案における処理装置がコンピュータプログラムに関し、且つ当該特徴が既知であることを示す証拠がない、と考えた。

 

   これに対して、出願人は、上記特徴を検索し、回答において証拠CN113014543Aを引用し、証拠CN113014543Aにおける主機器204(本願の処理装置に相当)が、受信された生体データに基づいて身分識別を行い、生体データが具体的に従属機器202により収集された指紋データ、顔画像、虹彩データ、網膜データなどの様々な生理的特徴データなどの、ユーザの生体特徴を特徴付けるデータを含むと指摘した。従って、出願人は、証拠CN113014543Aには、請求項1の特徴である「前記マルチモーダル生体情報収集装置により収集された顔画像、虹彩画像及び網膜画像のうちの少なくとも1つの画像を受信し、前記画像に基づいてそれとマッチングする身分情報を決定するために用いられる処理装置」が開示されていると主張した。すなわち、上記特徴は当該分野の周知技術であり、本願の改善点を構成するものではないため、当該出願の請求項は方法そのものに対して提案された改善を含まず、特許法第2条第3項に規定の実用新案の保護対象に該当すると主張した。最後に、審査官は、出願人の反論意見を受け入れ、実用新案の特許権を付与した。

 

案件2:

 

   案件2において、請求項1には、「前記メインモジュールと前記バックアップモジュールのデータバージョンを識別し、前記データバージョンに基づいてデータを前記メインモジュールから前記バックアップモジュールに書き込むように前記更新モジュールを制御し、又はデータを前記バックアップモジュールから前記メインモジュールに導入するように前記導入モジュールを制御するために用いられる判断モジュール」という特徴が含まれている。

 

   拒絶理由通知書において、審査官は、上記特徴を実現するために、必要に応じて、特定のコンピュータプログラムを改善し又は開発する必要があり、コンピュータプログラムが方法特徴に属するため、当該技術案が実質的に方法そのものに対する改善を含み、従って、特許法第2条第3項に規定の実用新案の保護対象に該当しない、と示している。

 

   当該実用新案において、各モジュールを機能的に限定し且つモジュール間の関係を限定するように記述されているが、審査官は、その機能がコンピュータプログラムのようなソフトウェア手段のみによって実現できるか否かを判断し、更に、その改善が方法そのもののみに関するか否かを判断した。従って、最新の審査実践において、各モジュールを機能的に限定する記述方法だけで実用新案の保護対象の問題を回避することができない。

 

   審査官との更なるコミュニケーションにおいて、上記特徴が当該分野の周知技術であり、本願の改善点を構成しないと出願人が主張すると、審査官は証拠を提供して証明すべきと求めた。出願人は拒絶理由に応答する際に、上記特徴が当該分野の既知の技術に属し、本実用新案の改善点を構成するものではないと証明するために、証拠CN114371960Aを提供した。それによって、当該出願の請求項は方法そのものに対しての改善を含まず、特許法第2条第3項に規定の実用新案の保護対象に該当すると認められた。

 

   三.案件からの啓示

 

   コンピュータプログラムに関する実用新案出願については、まず出願人の提供する技術案と合わせ、その発明点が方法そのものに対する改善を含むか否かを重点的に考慮し、実用新案の保護対象に該当するか否かを判断すべきである。技術案において、方法そのものに対する改善が存在し、又は製品、構造を新たな方法によって製造しなければならない場合、出願人は、案件の出願種類を発明に変更し、又は方法そのものに対して新たな発明出願を提出することを勧める。一方、もし技術案が方法に関わるが、製品及びその構造が既知の方法のみによって限定された場合は、実用新案の保護客体に該当すると判断することができる。

   また、方法又はソフトウェア特徴を含む技術案を特許請求する実用新案特許出願に対して、出願書類は、その発明点がソフトウェア又は方法特徴ではなくハードウェア特徴のみにあることを証明すべきであることに特に留意しなければならない。即ち、出願人は、明細書において、関連する方法が既知の技術であることを明確に説明し、詳細に解釈し、審査官から異議が出された場合に従来技術に属する証明を提供でき、答弁や補正が円滑に行われるようにすべきである。

 

 

筆者プロフィール

   秦青弁理士は2013年に山東大学の学士学位を取得し、2016年に山東大学の修士学位を取得した。2019年に当社に入社し、光学、物理、電子、通信などの分野における特許検索、提訴、再審、無効、訴訟、コンサルティングなど業務に従事している。

 

 北京朝陽区朝陽門外大街16号中国人寿ビル10階1002-1005室       +86-10-85253778/85253683       mail@panawell.com

版権所有:北京泛華偉業知識産権代理有限公司    技術サポート:漢邦の未来 京ICP备18047873号-1