弁理士 袁  瑩銘

  1984年に中国の『専利法』が発効してから、3回の改正を経ても、中国の意匠専利権の保護対象はずっと製品全体の意匠であった。2008年に改正された『専利法』第2条第4項には、「意匠とは、製品の形状、模様又はその組合わせ並び色彩と形状、模様との組合せに対して行われる、優れた美観に富み、かつ工業上の応用に適した新たなデザインを指す。」と規定している。2010版『専利審査指南』も、製品の分割できない、又は単独では販売できない、そして単独では使用できない製品の部分的な設計は、意匠専利権を付与しない状況に該当する」と規定している。しかし、『専利法』(2020改正)の公布・施行に伴い、中国は正式に部分意匠を専利保護体系に組み入れ、部分意匠も『専利法』の保護対象となった。これと同時に、『専利審査指南』の改正も進められ、2021年8月3日、『専利審査指南改正草案(意見募集稿)』(以下、『意見募集稿』という)が公布された。近い将来に、部分意匠専利制度が正式に実施され、社会にさらなるイノベーションの原動力をもたらすことが期待されるる。以下、『意見募集稿』における部分意匠に関わる部分について簡単に紹介する。

 

1. 部分意匠の定義

  部分意匠とは、製品の一部の形状、模様又はその組合わせ並びに色彩と形状、模様の組合せに対して行われる、優れた美観に富み、かつ工業上の応用に適した新たなデザインを指す。製品の分割できない部分の保護を請求する場合、部分意匠の方式で出願しなければならない。例えば「背もたれの彫り模様」、「自動車のタイヤトレッド」などである。

  以下の項目は意匠専利権を付与しない状況に該当すると規定されている。

(1)製品の上に相対的に分割可能な独立領域を構成できない、又は相対的に完全な設計ユニットを形成できない局部意匠。例えば、コップの取っ手の屈折した輪郭線、任意に切り取った眼鏡レンズの不規則な部分など。

(2)専利保護を請求する部分意匠は、製品表面の模様又は模様と色彩を組み合わせたものだけである。例えば、バイクの表面の模様。

2. 部分意匠の製品名称

  部分意匠専利を出願する場合、製品名称に保護を求める部分及びそれを含む製品全体を明記しなければならない。例えば「自動車のドア」、「携帯電話のカメラ」。

3. 部分意匠の図面又は写真

  『専利法実施細則(意見募集稿)』第27条には、「部分意匠専利を出願する場合、製品全体の図面を提出し、破線と実線の組み合わせ又はその他の方式で保護を求める内容を明示しなければならない」との文言がある。

  製品全体の図面は、専利保護を求める製品の部分意匠及び製品全体におけるその位置と比率関係を明確に示さなければならない。保護を求める部分が立体形状を含む場合、提出した図面には当該部分を明確に表示できる斜視図を含まなければならない。

  提出した図面は、保護を求める部分とその他の部分とを明確に区別できなければならない。保護を求める内容を実線と破線の組み合わせで示す場合、実線は保護する部分を、破線はその他の部分を示す。他の方法で保護を求める内容を表示することもできる。例えば、保護を求める部分以外を単一色の半透明層で覆う、こともできる。必要に応じて、一点鎖線で部分意匠におけいて保護を求める部分とその他の部分との境界線を示さなければならない。

  ここで注意すべき点としては、ハッチングで意匠の形状を表現してはならず、図面に中心線、寸法線のような不要な線又は標記があってはならない。

4.部分意匠に関する簡単な説明

  『専利法』64条第2項には、意匠専利権の保護範囲は図面又は写真に示された当該製品の意匠を基準とし、簡単な説明は図面又は写真に示された当該製品の意匠の解釈に用いることができると規定している。

  現行『専利法実施細則』第28条の規定によれば、意匠の簡単な説明には、意匠製品の名称、用途、意匠の設計ポイントを明記し、設計ポイントを最もよく示す図面又は写真を指定しなければならない。

  『専利審査指南改正草案(意見募集稿)』によれば、部分意匠専利を出願する場合、簡単な説明は次の各号に掲げる規定に合致しなければならない。

(1)実線と点線の組み合わせ以外の方式で保護を求める部分意匠を示す場合、簡単な説明において保護を求める部分を明記しなければならない。

(2)一点鎖線で保護を求める部分とその他の部分との境界線を示す場合、必要に応じて簡単な説明に明記しなければならない。

(3)必要に応じて、保護を求める部分意匠の用途を明記し、製品名称に示された用途と対応しなければならない。

(4)指定された設計ポイントを最もよく示す図面又は写真は、保護を求める部分意匠を含まなければならない。

5.部分意匠の分割出願の要件について

(1)元の出願が製品の部分意匠である場合、その部分を含む製品全体又はその他の部分の意匠を分割出願として提出することは認められない。

(2)元の出願が製品全体の意匠である場合、その一部分を分割出願として提出することは認められない。例えば、元の専利出願がバイクの意匠出願である場合、バイクの部品又は部分意匠を分割出願として提出することはできない。

6.類似意匠の要件について

  『専利法』第31条2項には、「1件の意匠専利出願は、一つの意匠に限られていなければならない」と規定している。

  同一製品の2つ以上の類似意匠を、1件の出願(併合出願と略称する)として提出することができる。

  同一製品の2つ又は2つ以上の連結関係のない部分意匠であっても、機能又は設計上の関連性を有し、かつ特定の視覚効果を成すものは、1つの意匠とすることができる。例えば眼鏡の2つのテンプルのデザイン、携帯電話の四隅のデザイン。

  一般的には、全体的に観察して、その他の意匠及び基本意匠が同一又は類似の設計特徴を有し、また、二者間の相違点が局部の微細な変化、当該種類の製品の通常の設計、設計ユニットの繰り返しの配列、製品全体における部分意匠の位置及び/又は比例関係の通常の変化、又は色彩要素のみの変化等である場合、通常、二者は類似意匠に属すると考えられる。

7.出願人の自発的補正について

  出願人の自発的補正について、審査官はまず、補正を提出した日が出願日から起算して2ヶ月以内であるか否かを確認しなければならない。2ヶ月を超える補正については、補正された書類が元の出願書類に存在していた欠陥を取り除き、権利付与の見通しがある場合、当該補正書類を受理することができる。受理しない補正書類について、審査官は未提出とみなす通知書を発行しなければならない。ただし、下記の補正については、元の出願書類に存在する欠陥を解消するものとは認めず、2ヶ月の自発補正期間を超えたことを理由に未提出とみなす通知書を発行しなければならない:

(1)全体意匠を部分意匠に補正すること、

(2)部分意匠を全体意匠に補正すること、

(3)同一製品全体におけるある部分意匠を別の部分意匠補正すること。

8.通知書に指摘された欠陥に対して行う補正

  通知書に指摘された欠陥に対して行った補正について、審査官は当該補正が元の図面又は写真に示された範囲を超えているか否か、及び通知書に指摘された欠陥に対して行った補正であるか否かを審査しなければならない。出願人の提出した補正書類が元の図面又は写真で示された範囲を超えている場合、審査官は審査意見通知書を発行し、当該補正が『専利法』第33条の規定に合致しないことを出願人に通知しなければならならない。出願人が意見陳述又は補正を行った後も規定に合致しない場合、審査官は拒絶査定を下すことができる。

  出願人が提出した、通知書に指摘された欠陥に対しての補正が含まれていない補正書類について、その補正が『専利法』第33条の規定に合致し、かつ、元の出願書類に存在していた欠陥を取り除き、権利付与の見通しがある場合、当該補正は通知書に指摘された欠陥に対して行われた補正とみなすことができ、この補正が行われた出願書類を受理すべきである。

  但し、次の各号に掲げる補正については、補正の内容が元の図面又は写真に示された範囲を超えていなくても、通知書に指摘された欠陥に対して行われた補正とみなすことができず、受け入れないものとする。

(1)全体意匠を部分意匠に補正すること、

(2)部分意匠を全体意匠に補正すること、

(3)同一製品全体におけるある部分意匠を別の部分意匠に補正すること。

  産業の発展に伴い、製品のデザインがますます細分化され、成熟した製品の全体意匠はますます革新しにくくなり、部分意匠が次第に意匠革新の重要な表現形式となりつつ、部分意匠の保護に対するイノベーション主体のニーズが日増しに強くなっている。そのため、イノベーション主体の訴えに応えるために、改正『専利法』第2条第4項には、製品の「部分」意匠に専利保護を与えることが明確化された。2021年6月1日から、出願人は中国国家知識産権局に製品の局部の保護を求める意匠専利出願を提出することができる。ただし、『専利法実施細則』はまだ改正の過程にあり、2021年6月1日から、出願人は一時的に紙書類又はオフライン電子出願の形式で、上記の部分意匠専利出願を提出しなければならず、中国国家知識産権局は、新たに改正される『専利法実施細則』及び付随の『専利審査指南』の施行後に上記出願を審査する。

 

 

 

 

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