商標弁理士 高 雅

 

  周知のように、悪意による商標の登録は常に業界内で注目されるホットな話題であり、現行の『商標法』における悪意による商標登録の定義、規制等に関する条項は徐々に整備されつつあるが、一定の欠陥が存在している。そのため、商標の権利付与・権利確定過程における悪意による商標登録の問題は依然として多くの出願人の悩みの種となっている。この度は、商標出願における典型的な悪意行為の事例パターンから、これらの悪意行為をどのように規制するかについて、いくつかの対応策を提案する。

一.よく見かける悪意による出願行為及びその対応戦略
 中国国家知識産権局が2019年に発行した『商標登録出願行為の規範化に関する若干の規定』第3条には、下記の規定がある。
商標登録出願は、信義誠実の原則を守らなければならず、次に掲げる行為があってはならない。
(一)『商標法』第 4 条の規定に該当する、使用を目的としない悪意のある商標を登録出願する行為。
(二)『商標法』第13 条の規定に該当する、他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳する行為。
(三)『商標法』第 15 条の規定に該当する、代理人、代表者が権限付与を受けないまま被代理人又は被代表者の商標を登録出願する行為。契約、業務上の取引関係、又はその他の関係により、他人の先使用商標の存在を知りながら、当該商標を登録出願する行為。
(四)『商標法』第 32 条の規定に該当する、他人の既存の先行権利を害し、又は不正な手段により他人がすでに使用し、一定の影響力のある商標を抜け駆け登録する行為。
(五)詐欺又はその他の不正な手段により、商標を登録出願する行為。
(六)その他信義誠実の原則に違反し、公序良俗に反し、又はその他の不良影響がある行為。
 
  上記の規定に基づいて、筆者は現在よく見かける悪意による商標の抜け駆け出願の形式を整理し、これらの行為への対応について逐一提案する。

関連規定(一)
『商標法』第 4 条の規定に該当する、使用を目的としない悪意のある商標を登録出願する行為。
具体的な事例パターン
 使用を目的とせず、複数の区分に商品又は役務上に、商標登録を大量に出願し、共有資源を先に奪うこと。
対応策案
『商標登録出願行為の規範化に関する若干の規定』第5条には、「商標登録出願について、商標登録部門は、それが『商標法』第 4条の定める使用を目的としない悪意のある商標登録出願に該当することを発見した場合、法により拒絶し、公告しない査定を下さなければならない」と規定されている。明らかに、現行の『商標法』は、「使用を目的としない」悪意のある登録行為を登録査定からできるだけ除外し、後続の審査手続において生じる行政、司法資源の浪費を避けるために、悪意のある登録を管理する審査の関門を前倒している。
 しかし、審査官が把握している情報が限られているため、一部の「使用を目的としない」「悪意のある」商標が登録されることは免れない。これは否定できない事実である。この場合、商標権利者や他人が、商標登録出願が『商標法』第4条の規定に違反しているか否かを判断するときは、当該出願人が出願した商標の件数、種類、取引状況、及び当該出願人の経営状況、処罰状況等の多方面から考慮することができる。

関連規定(二)
 商標法第 13 条の規定に該当する、他人の馳名商標を複製、模倣又は翻訳する行為。

具体的な事例パターン
 1.中国で既に登録されている他人の馳名商標を一つ又は複数の区分において複製、翻訳、模倣又は変造すること。
 2.中国で登録されていない他人の馳名商標を一つ又は複数の区分において複製、翻訳、模倣又は変造すること。

対応策案
 上記第1種の事例パターンは、主に『商標法』第13条第3項に規定された状況、すなわち「非同一又は非類似の商品について、他の区分において中国で登録されている商標を出願する」ことに適用する。このような状況は、係争商標が関連公衆に先行馳名商標と相当程度の関連性があると認識させるのに十分であり、それによって公衆を誤認させ、馳名商標登録者の利益を損ない、又は先行馳名商標の識別性(顕著性)を薄める可能性があることを主に証明しなければならない。対応の際、一般的に考えられる要素には、下記のものが含まれるが、これらに限定されない。 ①先の馳名商標の識別性(識別性が高いほど保護の程度が強い)
②係争商標と先の馳名商標とが類似しているか否かの状況(複製、模倣又は翻訳、完全に含まれているか又は全体的な意味に差異がないなど)
③2つの商標の指定商品の使用状況(通常、日用品の間には比較的に大きな関連性がある)
④2つの商標の関連公衆の重複具合及び注意具合(通常、日用品の販売対象及び販売ルートには重複が多い)
⑤係争商標出願人が他の商標を登録出願及び使用する状況(故意に先の馳名商標の人気によじ登り、又は、その商標を不当に利用しようとする主観的悪意があるか否か)
⑥先の商標が既に登録され、かつ馳名である状況(馳名商標として保護された記録)
⑦混同を生じさせ又は公衆を誤認させる可能性。

 上記第2種の事例パターンは、主に『商標法』第13条第2項に規定された状況、すなわち「同一又は類似の商品について、中国で登録されていない他人の馳名商標を先取り登録する」ことに適用する。このような状況は主に、まず中国で登録されていない商標が馳名商標を構成することができるか否かを検証し、その後、係争商標が先行馳名商標の複製、模倣又は翻訳を成すか否かを考慮し、最後に、係争商標の存在が混同を招きやすいか否かを認定しなければならない。対応の際、一般的に考えられる要素には、下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
①先に登録されていない商標の識別性(識別性が高いほど保護の程度が強い)
②先に登録されていない商標が馳名商標を構成する状況(先の商標が馳名商標に該当すると主張する場合、通常、当該商標が係争商標の出願日前の5年間に既に馳名状態にあった証拠、例えば販売量、販売範囲、市場シェア、継続使用の期間及び程度、当該商標がかつて馳名商標として保護された記録等を提出しなければならない。)
③係争商標と先に登録されていない商標とが類似しているか否かの状況(複製、模倣又は翻訳、完全に含まれているか又は全体的な意味に差異がないなど)
④二つの商標の指定商品の類似度(機能、用途、主な原料、販売ルート及び消費者グループ)
⑤混同を生じさせ又は公衆を誤認させる可能性。

関連規定(三)
 『商標法』第 15 条の規定に該当する、代理人、代表者が権限付与を受けないまま被代理人又は被代表者の商標を登録出願する行為。契約、業務上の取引関係、又はその他の関係により、他人の先使用商標の存在を知りながら、当該商標を登録出願する行為。

具体的な事例パターン
 提携交流又は交渉、提携、代理販売又はサービス等のビジネス活動において知り得た他人の商号、商標等の名称、標識を、同一、類似又は異なる区分の商品又は役務を指定して、先に出願登録すること。

対応策案
上記の具体的な事例パターンには、『商標法』第15条に規定される特定関係者による抜け駆け出願の2種類のパターンが含まれている。第一は、代理人又は代表者による抜け駆け出願の禁止であり、第二は、契約のある取引又はその他の特定関係者による同一又は類似の商品における抜け駆け出願の禁止である。
 第1種の抜け駆け出願行為の出願人と被代理人との間には、双方が代理又は卸売販売契約を締結したことがある、双方が代理又は卸売販売事項について協議又は交渉を行ったことがある、又は双方の間に雇用関係がある等直接的な関連関係があることを証明しなければならない。上記のような関係の存在を証明するには、申請人は代理契約、売買契約、取引証票、銀行の領収書、電子メール等の書面によるビジネス取引文書、労働契約、社会保険納付証票等、双方に直接の関連性があることを証明できる資料を収集し、提供しなければならならない。それによって、被申請人が申請人の商標の資料を事前に知っていたことを証明する。
 第2種の抜け駆け出願行為の出願人と特定の関係者との間には直接的な関連関係がないため、証拠チェーンを構築する必要がある。まず、双方が関連や関係を持っていることを証明する必要がある。次に、先の商標が同一又は類似の商品において先に使用されていることを証明する必要がある。当該関係の確立を証明するには、特定関係者は下記のものをまとめ、提供する必要がある。(1)特定関係の存在を証明する証拠(展示会・イベントへの双方の共同参加資料、双方が署名した代理/売買契約以外のその他の契約資料、双方の実際の経営地などの地理的位置情報、及び被請求人が「明らかに知っている」可能性があることを証明できるその他の資料が含まれるが、これらに限定されない)(2)特定関係者の商標の先使用を証明する証明(販売契約、宣伝資料、出展資料、メディア報道、栄誉資格など、先の商標が既に中国で実際に使用されていること又は中国市場参入のために実際の準備作業を行っていることを証明する資料が含まれるが、これらに限らない)。
 上記2つの抜け駆け出願行為の最大の違いは、第1種の抜け駆け出願行為は被請求人が既にその商標を先に使用していることを要求しないのに対し、第2種の抜け駆け出願行為は特定の関係者が中国でその商標を先に使用していることを要求するが、当該商標が使用を通じて一定の影響を持っていることを証明する必要がない。

関連規定(四)
 『商標法』第 32 条の規定に該当する、他人の既存の先行権利を害し、又は不正な手段により他人がすでに使用し、一定の影響力のある商標を抜け駆け登録する行為。

具体的な事例パターン
 1.他人がまだ中国で出願又は登録していない外国の有名商標、商号又は商号の訳文、ドメイン名を中国の一つ又は複数の区分の商品又は役務上に抜け駆け登録出願すること
 2.中国又は外国の人物の名称、建築物の名称、地理的名称、観光スポットの名称、歴史上の人物の名称又は文学作品中の人物又は役割の名称を一つ又は複数の区分の商品又は役務上に抜け駆け登録出願すること
 3.有名な人物の特色ある言語表現、動作、イメージを一つ又は複数の区分の商品又は役務上に抜け駆け登録出願すること

対応策案
 上記の具体的な事例パターンは、『商標法』第32条に規定される先行権利/先使用に対する抜け駆け出願に関するいくつかの状況を基本的にカバーしている。
 『商標の権利付与・権利確定に係わる行政案件の審理における最高人民法院の規定』第18条には、「商標法第32条規定の先行権利は、当事者が係争商標の出願日前に有していた民事権利或いはその他保護すべき合法的権益を含む」と規定されている。『商標審査及び審理基準』において、「本条に規定する先行権利とは、係争商標の登録出願日前に既に取得した、商標権以外のその他の権利を言い、商号権、著作権、意匠権、氏名権、肖像権が含まれる。」と規定されている。
 先行権利としての「著作権」を主張する場合、まず主張する客体が著作物を構成するか否かを判断しなければならならない。著作権登記証書があるからといって、当然著作権を有するとはかぎらない。次に、当事者が主張する客体の著作権者又は利害関係者であるか否かを判断しなければならならない。著作権登記証書のほか、作品デザインの原稿、創作委託契約及び著作権譲渡契約などが証明の効力を有する場合がある。最後に、係争商標が著作権に対する侵害を構成するか否か、すなわち関連公衆の混同、誤認を招くおそれがあるか否かを判断する。
 先行権利としての「氏名権」(別名、ペンネーム、芸名、ハンドルネーム、訳名、あだ名など)を主張する場合、まず当該氏名が比較的高い知名度を有することを証明しなければならない。次に証明すべきは、当該氏名が相応の自然人と安定した対応関係を確立していると公衆が認識していることである。すなわち、当該氏名は高いイメージ価値と精神的なカリスマ性を有しており、一旦商業活動に用いられば、直接的な広告効果と購買訴求力に転化することができることである。かつて世間を騒がせた「ジョーダン商標事件」はその一例である。最後に、係争商標の登録が他人の氏名権に損害を与える可能性があることを証明すべきである。
 先行権利としての「商号権」(略称、愛称など)を主張するには、まず当該名称と特定企業との間に客観的な関連性があるかどうかを判断しなければならない。次に、当該名称が関連公衆の中で有している知名度を考慮する必要がある。最後に、係争商標の登録が当該商号権を有する企業に対しマイナスの影響を与えるかどうかを考慮しなければならない。
 先行権利としての「肖像権」(肖像とは、映像、彫刻、絵画などの方式を通じて一定の媒体に反映された、特定の自然人が識別されることができる外部のイメージである)を主張する場合、まず、当該肖像が肖像権者を指しているか否かを証明しなければならない。次に、関連公衆が当該肖像画と肖像権者との対応関係を容易に構築できるか否かを証明しなければならない。最後に、当該肖像商標の登録が肖像権者に損害を与える可能性があることを証明しなければならない。肖像のシルエットについては、実際において、当該肖像のシルエットが「特定の自然人の顔の個性的な特徴」を有するか否かを確定することは困難であるため、肖像のシルエットに基づいて他の商標の登録を禁止するケースはほとんどない。これまでの「ジョーダン」シリーズ案件において肖像権に対する主張は支持されなかったが、現在進行中の「真功夫商標がブルース・リーのイメージを侵害する」事件において突破されるかもしれない。
 先行権利としての「意匠特許権」を主張する場合、通常、当該意匠が権利化されたか否か、係争商標が当該意匠と同一又は類似するか否か、係争商標の指定商品が当該意匠の使用する製品と同一又は類似するか否かを考慮する。また、意匠特許権は図形商標の登録のみを禁止することができ、文字商標の登録を禁止することはできない。
 作品名称、作品中のキャラクター名称等の先行権利を主張するには、まず、作品名称、作品中のキャラクター名称の識別性、知名度と影響力を考慮しなければならない。知名度が高く、影響力が強いほど、作品名称、作品中のキャラクター名称の商品化権利の保護範囲が大きくなる。次に、作品名称、作品中のキャラクター名称がカバーする可能性のある玩具、録音・録画製品、書籍、ガレージ・キット、ビデオゲーム等の副産物の範囲と係争商標の指定商品・役務の範囲が交差するか否かとを考慮しなければならない。最後に、交差関係があれば、係争商標出願人が作品名称、作品中のキャラクター名称の知名度を利用して容易に巨大な商業価値及び商業信用を獲得することとなり、本来ならば当該作品名称、作品中のキャラクター名称が持つ商業的価値の創出を抑制してしまう可能性を考慮する。現行の司法実践において、先の商品化権利の保護を与える範囲は一般的に、関連公衆に誤認を生じさせる可能性のある副産物の範囲に限られる。
 知名商品・サービス特有の名称、包装、装飾などの先行権利を主張する場合、通常、係争商標の登録出願前に知名商品・サービス特有の名称、包装、装飾が既に先に使用されていたか否か、知名商品・サービス特有の名称、包装、装飾に商品の出所を区別できる顕著な特徴があるか否か、係争商標が知名商品・サービス特有の名称、包装、装飾と同一又は類似しているか否か、係争商標の登録と使用が関連公衆の混同を招きやすいか否かを考慮しなければならない。

関連規定(五)
 欺瞞又はその他の不正な手段により商標登録を出願した場合
具体的な事例パターン
 1.その他の出願人又は登録人が、一つ又は一部の区分の商品又は役務に既に中国で出願又は登録している周知又は非周知商標を、その他の一つ又は複数の区分の商品又は役務に抜け駆け登録出願すること
 2.その他の出願人又は登録人が、一つ又は一部の区分の商品又は役務について既に中国で出願又は登録している文字商標を、他の言語を使用して、一つ又は複数の区分の商品又は役務について抜け駆け登録出願すること
 3.同一又は異なる登録者が既に中国で登録している周知又は馳名商標を組み合わせた後に、一つ又は複数の区分の商品又は役務に抜け駆け登録出願すること

対応策案
 上記のパターンは、『商標法』第44条の「その他の不正な手段」に係る、「複数商標の多区分登録の大量ストック」又は「登録出願された多数の商標が知名度の高い他人の商標である」等の商標登録秩序を乱す状況を基本的にカバーしている。
 係争商標が「その他の不正な手段」に該当するか否かを考慮するには、第一に、係争商標出願人の商標登録数を見る必要があり、第二に、係争商標出願人に悪意による登録行為があるか否かを見る必要がある。目下、悪意のある登録行為を強力に取り締まり、厳罰化することが商標の権利付与・権利確定の行政機関、司法機関の基本態勢となっているため、出願商標の数よりも、係争商標出願人の悪意に対する認定が案件全体に対してより決定的な影響を与える。
 2019年の「北京市高級人民法院 商標の権利付与・権利確定行政案件に係わる審理指南」の第17.3条には、「その他の不正な手段による登録取得」に該当すると認定できる状況が規定されている:
①係争商標の出願人が登録出願する複数の商標が、他人の高い識別性のある商標或いは 高い知名度のある商標と同一又は類似するものであり、異なる商標権者の商標に関し同一又は類似の商品、役務における登録出願、さらに同一の商標権者の商標に関し同一でも類似でもない商品又は役務における登録出願も含まれること
②係争商標の出願人が登録出願する複数の商標は、他人の企業名称、社会組織の名称、 一定の影響力のある商品の名称、包装、装飾等の商業標識と同一又は類似の標章に該当すること
③係争商標の出願人に、商標の売り込み、又は高額での譲渡が不成立となると先行商標の使用者を相手取って権利侵害訴訟を提起する等の行為があったこと

 「その他の不正な手段」に関連する具体的な状況を適用するか否かを判断する際には、通常、係争商標と先行商標との類似具合、先行商標の識別性、知名度及び影響力、係争商標出願人が係争商標及びその他の商標を出願、登録及び使用する行為、即ち、係争商標及びその他の商標を出願、登録及び使用する能力と真実の意思があるか否かを考慮しなければならない。一般的に、係争商標出願人の商標出願件数の他、上記の要素を考慮する際のの時点は係争商標出願日を基準とする。
 現行の実践において、係争商標出願人は、係争商標が「その他の不正な手段により登録を取得した」と認定される状況を回避するために、常に係争商標を第三者に譲渡する行為を採用しているが、係争商標出願人と第三者に特定の関係がある場合には、当該条項の適用には支障をきたさない。

関連規定(六)
 信義誠実の原則に違反し、公序良俗に反し、又はその他の不良影響があるその他の場合。

具体的な事例パターン
 1.近ごろ又は進行中の自然的若しくは政治的な現象、出来事又は使用されている名称又は用語を、一つ又は複数の区分の商品や役務に抜け駆け登録出願すること
 2.国際社会、国家、地域、組織又は団体の図案又は標識を模倣又は変造し、かつ、一つ又は複数の区分の商品や役務に抜け駆け登録出願すること
 3.現実生活においてファッション、科学技術、スポーツ、飲食、文化(音楽、美術、映画テレビ、文学、舞踊、演劇、ゲーム等を含む)に関連する一部の流行り語彙、用語、キャラクター名称、アイコン、イメージ又は動作を一つ又は複数の区分の商品や役務に抜け駆け登録出願すること

対応策案
 実践において、よく見られる「不良影響」条項にかかわる案件は5種類に分けられ、第1に、社会主義の道徳、風習を害するもの;第2に、政治的に不良影響があるもの;第3に、経済的に不良影響があるもの;第4に、文化的に不良影響があるもの;第5に、宗教上、民族上の不良影響があるものがある。
 近年、商標行政機関は、信義誠実の原則に著しく違反し、公序良俗に反し、商標登録管理秩序を乱し、社会的に深刻な影響を与えやすい悪意による商標の抜け駆け出願行為を厳しく取り締まるために、多くの司法解釈及び管理措置を制定、公布した。このような環境下で、上述の第1、第2、第3類の案件は通常、審査の際に商標権確定機関によって拒絶される。例えば、「清澄な愛」、「李文亮」、「火神山」及び「丁真」等の商標は、「社会主義の道徳、風習に有害であり、又はその他の不当な影響がある」ことを理由として直接拒絶された。
 まぐれで審査を通過した商標は、通常、上記で言及された第4、第5類の案件である。関連権利者は、日常生活の経験、又は辞典、参考書等の官庁資料、又は宗教分野の人士の通常の認識に基づき、係争商標が社会公共利益及び公共秩序に消極的、マイナスの影響を及ぼす可能性があるか否かを認定することができる。同時に、当該標識自体の品詞、意味及び指定された商品又は役務の項目を総合的に考慮して、当該標識が必然的に不良影響をもたらすか否かを判断しなければならない。
 近年、ネット流行り言葉の発展は多くの語彙に対する人々の慣習的な定義と使用方法を打ち破った。ネット上で話題になっている言葉は既に商標創意の主な出所の一つとなっている。しかし、「舐める犬」、「アヒルを呼ぶ」等のように、格調が高くなく、社会主義の良好な道徳、風習に反する言葉の選択を避けるべきである。同時に、第30類医療用栄養食品に指定されている商標「私のカロリーを燃やす」のように、言葉の識別性も考慮しなければならない。
 係争商標が特定の業界、地域の逝去した有名人物の氏名、肖像と同一又は類似する場合、係争商標の指定商品がこの有名人物の従事する業界と関連があるか否か、当該業界の商品の品質、信用、工芸等の特徴を誤認させるか否かを考慮しなければならない。係争商標が逝去した政治、経済、文化、宗教、民族等の有名人の氏名、肖像と同一又は類似する場合、関連公衆が係争商標を有名人と結びつける恐れがあるか否か、社会公共利益に消極的な影響を及ぼすか否かを考慮しなければならない。
二. 証拠書類のまとめに関する若干のコメント

上記から分かるように、悪意のある登録行為を取り締まるには、いずれも先の商標の知名度を証明しなければならない。したがって、先行商標の知名度が証明できる証拠を整理し、提供するのは、悪意のある登録行為を順調に取り締まることができるか否かのキーポイントである。一般的に、先行商標の知名度を証明できる証拠資料には、主に次のようなものが含まれる:
1、販売証票に関する証拠。特定の時間、地域、顧客の製品経営契約書及び領収書が含まれるが、これらに限定されない。契約書と領収書は1対1に対応しなければならない。また関連する販売範囲、時間、金額及び契約相手などの情報を専ら抽出し、表で1つずつ明記したほうがよい。抜け駆け登録者が権利者の商標を明らかに知っている又は知っているべきであることを証明するために、その住所地又は営業地に係わる販売契約書を重点的に提供することができる。
2. メディア報道に関する証拠。 商標の使用及び知名度を客観的に示すために、権利者のブランド又は製品の発展状況、知名度、名誉及び社会的責任等に関する主流メディアの報道が含まれるが、これらに限定されない。このような証拠は、中国国家図書館が発行するブランド検索レポートの形で提供することを提案する。
3.権利者又はその利害関係者が業界展示会、主要メディア等の場で発表した広告宣伝に関する証拠。テレビ・ビデオ広告、展示会広告、定期刊行物・雑誌広告、屋外広告、ウェブページ広告等、権利者のその商標に対する使用具合及び実際の影響力の範囲を示す資料が含まれるが、これらに限定されない。広告代理契約、広告費支出証票、領収書、広告の具体的な様式を含む完全な証拠チェーンを形成しなければならない。
4.権利者又はその利害関係者が獲得した各種栄誉・受賞に関する証拠。メダル、証書、市場占有率など権利者の商標知名度を証明する資料が含まれるが、これらに限定されない。また、関連する賞の名称、授賞機関、受賞時期などの情報をリストで整理することができる。
5.裁判書類に関わる証拠。権利者の商標知名度を認定した判決書、裁定書、決定書などの法律文書が含まれるが、これらに限定されない。前記証拠で権利者の商標の使用継続期間、使用範囲、広告投入、販売範囲、販売量、業界ランキングなどの情報を証明することができる。
このほか、証拠には関連性、合法性、客観性が必要であることに注意しなければならない。実務において下記のような証拠は不備があると認められる。証拠の形成時期が係争商標の出願日より遅い場合、先使用を証明することができない。中国大陸以外の証拠で中国の関連公衆の中での知名度を証明するのは難しい。翻訳されていない証拠は提出されなかったものとみなされる。第三者による証拠の裏付けが欠ける自作証拠には証明力がない。

三. 結び
悪意による商標の抜け駆け出願行為を取り締まり、社会全体がより正確な商標登録意識を確立するよう導くことは、商標の権利付与・権利確認における長期的な取り組みである。現在の立法は次第に整備されつつあるが、悪意による商標登録の問題は完全に解決されていない。不誠実な意図を以て、悪意による抜け駆け出願によって不当な利益を得ようとする者がまた存在しているので、真の権利者はこれらの抜け駆け登録された商標の処理に多くの時間と費用を費やしている。そして、これらの抜け駆け出願された商標が登録されれば、真の権利者による使用に対しては常に凄みを利かしている。現在、商標民事権利侵害事件において、勝訴側の合理的な支出及び弁護士費用は賠償を請求することができるようになっているが、悪意による登録行為に対しては商標の権利付与・権利確定手続においてはどのように措置が必要なのか、筆者の意見を下記に述べる。すなわち、商標出願は登録出願手数料CNY300元だけでなく、後続の一連の結果より生じる賠償も考慮しなければならないことを、抜け駆け登録者に認識させ、抜け駆け登録のコストと代価を気にしてもらう一方、真の権利者が悪意の登録者に対し賠償を求める依拠とルートを提供してこそ、悪意による抜け駆け登録の問題を徹底的に解決することができる。

 

 

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