特許弁理士 徐 舒

  速やかな権利化に対する出願人のニーズを満たすよう、中国国家知識産権局は、例えば、専利審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway、すなわちPPH)及び専利優先審査(Patent Prioritized Examination)のような早期審査手続きを提供している。以下、上記2つの手続の適用条件と加速効果を比較し、中国において専利審査ハイウェイと専利優先審査手続をどのように選択すれば良いか紹介する。

一、適用条件
  中国は現在、31の国及び地域の専利局と専利審査ハイウェイ試行プロジェクトを進めている。PPH手続は、外国出願の他の国又は地域における審査結果を参考にすることにより、対応する中国出願の審査を加速する仕組みである。したがって、PPH手続における基本的な要件は主に2つあり、すなわち、中国出願が外国出願と対応性していることと、当該外国出願の請求項の全部または一部が他の国又は地域の審査機関によって権利付与の可能性があると認定されたことである。

  PPH手続の上記基本的要件を満たすために、出願人は外国出願において有利な審査結果を得てはじめて中国でPPH請求を提出することができ、かつ、外国出願に対応する権利付与可能な請求項に合わせて中国出願の請求項を補正する必要がある。そのため、PPH手続は主に、他の国又は地域で最初の出願を行い、比較的長い期間が経ってから中国国家知識産権局にて審査される専利出願に適する。

  専利優先審査手続は、外国出願の審査結果を参考にするPPH手続とは異なり、主に審査資源を特定分野の専利出願に偏らせることにより、当該分野の専利出願の審査を加速するものである。『専利優先審査管理弁法』第3条で、専利優先審査手続を適用する専利出願の6種類を規定している:(1)省エネ・環境保護、次世代情報技術、バイオ、先端設備製造、新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車、知能生産等の中国の重点発展産業にかかわるもの;(2)各省及び区が設けられているる市級人民政府が重点的に奨励する産業にかかわるもの;(3)インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティング等の分野に関わり、かつ技術又は製品の更新速度が速いもの;(4)専利出願人又は復審請求人が既に実施準備を整えているか、既に実施を開始しているか、又は他人がその発明創造を実施している証拠を持っているもの;(5)同一の主題について初めて中国で専利出願を提出し、またその他の国又は地域に出願を提出した当該中国初出願;(6)国の利益又は公共の利益に対して重大な意義を有する優先的審査を要するその他のもの。実際には、専利優先審査の特定分野に該当するか否かの審査が非常に緩いため、相当数の専利出願に専利優先審査手続を適用することができる。また、現在、専利優先審査は中国の出願人だけでなく、外国の出願人にも適用されている。

  PPH手続と比べて、専利優先審査手続は、専利出願の関係する技術分野のみについて、比較的に広い要件を設けており、当該専利出願に権利付与可能な外国出願があるか否かについては要件を設けていない。優先審査請求を提出する際に、出願人は、対応する外国出願の審査結果を待つ必要がなく、中国出願の請求項を、対応する外国出願の権利付与可能な請求項に補正する必要もない。したがって、出願人は、より早期に優先審査請求を行うことができ、対応する外国出願に限定されない権利付与可能な請求項を以て審査を請求することができ、より適切な保護範囲を得ることができる。

  また、専利優先審査手続は、発明以外の実用新案及び意匠専利出願に適用可能であり、かつ審査段階、復審及び無効宣告段階を含む専利審査の各段階にも適用可能である。PPH手続は発明専利出願の実体審査段階のみに適用可能であり、1回目の審査意見通知書が発行される前に提出する必要がある。それに対し、発明専利出願の実体審査段階、実用新案及び意匠の方式審査段階、並びに発明、実用新案及び意匠専利出願の復審、無効宣告段階において、いずれも専利優先審査手続を使用することができる。適用する専利の種類と審査段階からみると、専利優先審査手続の方が優位性を持つ。

二、加速効果
  PPH手続の加速効果は主に、PPH手続に移行した専利出願が早期審査権利を取得できることにある。通常の専利出願と比べて、審査官はPPH手続に移行した専利出願に対して1回目の審査意見通知書をより早く発行する。また、PPH手続の下で、審査官は外国出願の他の国又は地域における審査履歴及び結果を参考にするので、対応の中国出願において新規性又は進歩性関連の欠陥が見つかる場合が比較的に少ない。これは、PPH請求の提出時に、中国出願の請求項が既に対応する外国出願の権利付与可能な請求項に合わせて補正されているからである。したがって、新規性及び進歩性関連の欠陥の解消に費やす審査時間を大幅に短縮することができ、中国国家知識産権局に拒絶される可能性も比較的に小さい。
  しかし、PPH手続は審査期間を明確に規定していない。実際には、1回目の審査意見通知書が発行された後、出願人の応答期限は通常の出願の応答期限と変わらない。このとき、PPH手続に移行した専利出願の審査過程は、通常の出願の審査過程に近似すると考えてもよく、出願人は応答期限について延期を請求してもよい。統計によると、PPH請求を提出してから1回目の審査意見通知書が発行されるまで平均2.2ヶ月かかり、権利付与又は拒絶査定の審決までに平均11.2ヶ月かかり、平均1.42回の審査意見通知書が発行される。一方、通常の出願は、実体審査段階に移行してから1回目の審査意見通知書を受け取るまでの平均時間は1年又はそれ以上長く、少なくとも2~3回の審査意見通知書を受領する。
  PPH手続と比較して、専利優先審査手続の顕著な特徴は、審査期間が明確に規定されていることである。『専利優先審査管理弁法』第10条には、国家知識産権局が優先審査の実施に同意した場合、同意した日から以下の期限内に審決しなければならないと規定している。すなわち、(1)専利出願に対しては45日以内にファーストアクションを出し、かつ1年以内に審決する。(2)実用新案及び意匠の出願に対しては2か月以内に審決する。(3)専利復審事件に対しては7か月以内に審決する。(4)発明及び実用新案の無効宣告事件に対しては5か月以内に審決し、意匠の無効宣告事件に対しては4か月以内に審決する。また、優先審査に移行した中国出願は原則として、延期請求を提出してはならない。延長請求が提出されると、その後の審査プロセスは加速を取り消され、通常の審査プロセスに戻る。
  以上から、専利優先審査手続に規定される審決期間は通常の出願の平均審査期間より著しく短いことが分る。実務上、出願人は優先審査請求の承認が通過した半ヶ月ぐらいで、1回目の審査意見通知書を受け取ることができる。そして審決期限を満たすために、専利優先審査手続において出願人の応答期限も短縮される。出願人が発明専利に係る審査意見通知書に応答する期限は通知書の発行日から2ヶ月に短縮され、実用新案及び意匠専利に係る審査意見通知書に応答する期限は通知書の発行日から15日に短縮される。専利優先審査手続では、審決期間及び応答期間を大幅に短縮することにより、審査プロセスの双方(審査官及び出願人)の迅速な対応を実現し、PPH手続よりも迅速な審査を実現することができる。
  ただ、現段階において、外国の出願人はPPH手続をより多く使用しており、専利優先審査手続にはあまり詳しくないのが現状である。前述の2つの手続の比較から分かるように、専利優先審査手続には適用条件がより緩く、加速効果がより顕著であるといった利点がある。
  以上をまとめると、外国出願人がその対応する外国出願の審査結果に満足している場合、すなわち権利取得可能な請求項に満足している場合には、PPH手続を考慮すれば良く、逆の場合は、専利優先審査手続を考慮すれば良い。中国の出願人にとって、提出された最初の専利出願について審査を加速しようとする場合、専利優先審査手続が好ましい選択であること間違いない。

 

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