弁理士  李渤


   近年、中国の科学技術レベルの急速な向上、国民のイノベーション及び知的財産権保護意識の全面的な向上に伴い、中国の特許出願件数及び権利付与件数は年々大幅に増加している。統計によると、2019年末まで、中国国内(香港・マカオ・台湾を除く)の発明特許保有件数は合計186.2万件であり、人口1万人当たりの発明特許保有件数は13.3件に達し、中国「第13次五年計画」で確定された目標任務を繰り上げて達成した[1]
   しかし、中国の現在の特許技術の転化、実施及び運営状況は決して楽観的ではない。多くの特許が権利付与されてから休眠状態に入り、その価値が十分に開発及び利用されておらず、権利付与が多くの特許にとって寿命の終点となり、前期の研究開発に投入された大量の資金及び時間等のコストが大きな浪費となり、特許権者及び科学研究者のさらに新たな特許技術の研究開発への意欲が損なわれている。他方で、中国の特許侵害紛争及び訴訟の件数は絶えず増加しており、限られた司法、行政及び社会資源にとって重い負担になっている。
    そのため、外国の立法と司法の実践を参考にし、中国の市場主体とイノベーション主体の現実的なニーズに基づいて、中国が2020年10月17日に公布した第4回改正『特許法』は、「特許実施の特別許諾」の章において「特許開放許諾」制度に関する3つの条項を新しく加えた。これは中国の「特許開放許諾制度」が正式に確立されたことを示しており、中国の特許実施許諾のタイプ及び方式を更に充実させた。
    具体的には、改正『特許法』の第50条には、特許権者による特許開放許諾の実施及び取り下げの手続要件が規定されている。すなわち、特許権者が自発的に書面にて国務院特許行政部門に如何なる部門又は個人にもその特許の実施を許諾する意思があると声明し、かつ許諾使用料の支払方式、基準を明確にした場合、国務院特許行政部門は公告を行い、開放許諾を実行する。実用新案、意匠特許について開放許諾声明を提出する場合、特許権評価報告を提供しなければならない。特許権者が開放許諾声明を取り下げる場合には、書面にて提出し、国務院特許行政部門にて公告を行わなければならない。開放許諾声明の取り下げが公告された場合、先に付与された開放許諾の効力に影響を及ぼさない。

   改正『特許法』の第51条には、特許開放許諾の被許諾者が特許開放許諾を取得するための手続要件及び特許年金減免措置が規定されている。すなわち、如何なる部門又は個人が開放許諾された特許を実施する意思がある場合、書面で特許権者に通知し、かつ公告された許諾使用料の支払方式、基準に基づき許諾使用料を支払った後、特許実施許諾を取得する。開放許諾の実施期間において、特許権者の納付する特許年金に対して相応に減免を与える。開放許諾を実行する特許権者は、被許諾者と許諾使用料について協議した後に普通許諾を与えることができるが、当該特許について独占的又は排他的許諾を与えてはならない。

    改正『特許法』の第52条には、特許開放許諾の紛争解決メカニズムが規定されている。すなわち、当事者が開放許諾の実施について紛争が発生した場合、当事者の協議により解決し、協議を望まない又は協議が成立しなかった場合、国務院特許行政部門に調停を請求し、又は人民法院に訴訟を提起することができる。

    上述の特許開放許諾制度の設置を見渡すと、特許許諾の許諾者と被許諾者の双方の自由意思に対する尊重が十分に反映されており、特許強制許諾と区別されることが分かる。また、許諾者及び被許諾者の権利及び義務について比較的に明確な規定が設けられているので、特許許諾の取引の安全性及び実施効率が保障される。このような制度の設置により、企業・事業単位及び一般公衆に開放的な特許許諾プラットフォームを提供し、特許情報の普及及び伝播を促進し、特許許諾手続を簡素化することができ、中国の将来の特許技術の開発・運用を推進し、特許技術の産業価値を発揮し、及び科学技術の進歩を促進する上で、必ず広範かつ積極的な役割を果たすに違わない。このため、多くの企業・事業単位及び科学研究機関は特許開放許諾制度に強い関心を持ち、試してみようとしており、この制度を利用して自身の未来の発展への新たな推進力を求めたいと考えている。
    しかし、いかなる法律制度の運用を成功させるにも、事前にその具体的な実施方式に対して全面的な考慮と計画を行い、客観的条件と併せて合理的な設計を行う必要がある。それによって、長所を生かし短所を避け、その最大の価値を発揮することができる。どのように特許開放許諾制度を効果的に運用し、その技術進歩を推進する役割を最大限に発揮し、かつその実施過程に発生する可能性のあるリスクを避けるかについては、以下のいくつかの面から考える必要がある。

    まず、特許制度は本質的に特許権者がその技術的優位性を通じて市場競争における優位性を維持する法的武器であり、競争相手を排除し制限することは特許権の最も直接的な目的である。これにより、市場における優越的地位がもたらす経済効果は特許許諾の実施による経済効果よりもはるかに大きいので、かなりの部分の特許権者は自分が多くの投資及び創造的労働を払って取得したコア特許を他人に許諾することに興味がない。したがって、実際に特許開放許諾プラットフォームに入れる価値のある特許の数は限られている。一方、実際に特許開放許諾プラットフォームに入る一部の特許は、技術又は市場等の面で必要な競争優位性又は実力に欠けており、往々にして特許権者が低価値の無形資産の残存価値を掘り起こし、又は知的財産権の維持コストを下げることを考慮して出した副次的な特許である。実際、特許開放許諾制度を長年実施している他の国で、開放許諾を実施している特許の件数がそれほど多くないのは[2]ここに一因がある。

    確かに、資金又は研究開発能力が限られている一部の特許権者が、その特許技術の価値を実現するために、又は更なる開発資金を求めるために、潜在的な市場価値及び開発の見通しがある特許技術を特許開放許諾プラットフォームに投入することもある。しかし、このような特許技術は往々にしてその技術開発の初期にあり、その将来の成功予測に対して比較的に大きな不確実性が存在し、このような特許の実施が一定のリスクに直面する可能性がある。

    よって、特許開放許諾プラットフォームを通じて価値のある特許技術を探そうとする投資者は、プラットフォームで提供される対象特許について十分な技術及び市場価値の評価を特許許諾の前に行う必要があり、決して盲目的に特許書類自体に記載された内容だけに基づいて決定を下してはならない。同時に、1つの特許技術について他の関連する特許技術、ひいては代替できる既存の技術が存在するか否かを考察する必要がある。特許技術比較、選別を通じて、特許の価値に対し総合的な評価を行うことは特許許諾の前に必要不可欠な業務である。
  次に、特許の法律状態についていえば、権利付与された特許の安定性には一定の不確実性が存在し、毎年かなりの部分の発明特許が無効宣告されており、実用新案特許及び意匠特許については、無効宣告される割合が当然より高くなる。改正『特許法』の第50条は、実用新案特許、意匠特許について開放許諾声明を提出する場合には、特許権評価報告を提供しなければならないと規定しているが、これはその特許が無効宣告されるリスクを完全に排除するには不十分である。しかし、実施段階に入った技術の依存する特許が無効になると、被許諾者にとって資金的及び時間的コストの面で生じる損失は往々にして取り返しがつかない。
    したがって、潜在的な特許被許諾者は特許開放許諾プラットフォーム上で提供される対象特許の法律状態を考察する必要もある。発生する可能性のあるリスクを回避するために、必要に応じて関連する従来技術について検索と分析を行い、特許の安定性を評価するとともに、特許許諾契約において許諾された特許が無効となった場合の責任及び損害賠償条項を設定しなければならない。
    第三に、特許は技術の開発及び実施にとって極めて重要であるが、技術が円滑かつ効果的に実施できるか否かは、特許書類に記載された技術内容以外の多くの要素が影響している。例えば、多くの特許権者は一部の技術の細部をノウハウとして残し、特許書類に公開しないが、この部分のノウハウは当該技術の効果的な実施にとって必要不可欠であり、又はその効能を最適に発揮させる肝心な要素である。したがって、特許許諾契約において、特許権者が特許許諾と同時に関連する技術の細部を併せて提供し、又は必要な人員訓練、養成等の保障業務を行うと約定することも絶対に必要である。
 また、1つの技術の開発は常に複数の特許を生み出すことができ、ひいては当該技術に対して保護するパテントプール又はパテントポートフォリオを形成することができる。このような状況において、潜在的な特許被許諾者は、特許許諾者のその開放許諾する特許に係る技術の特許出願の完全な状況を検索し、関連する他の特許も開放許諾プラットフォームに入っているか否かを考察しなければならない。開放許諾された特許の実施が許諾者の別の特許に対する許諾に依存しなければならない場合、特許開放許諾契約は、今後の技術実施に特許上の障害及び障壁が存在しないように、他の特許もその中に組み入れなければならない。
 同時に、1つの特許技術の開放許諾を経た後の実施過程においても、革新的な新たな技術構想が生じる可能性があり、これらの技術構想も同様に新規特許となる可能性がある。その新規特許の帰属は特許の許諾者と被許諾者の双方の切実な利益に関係し、それについて事前の約定を行うことも将来これによって生じる紛争を回避するのに役立つであろう。
    第四に、特許開放許諾は本質的に普通許諾に属し[3]、上述の法律の規定から分かるように、この制度は開放許諾を実施する特許に対して独占的又は排他的許諾を与える可能性を排除している。したがって、特許開放許諾を取得した被許諾者は、特許を実施する過程において、特許許諾者又はその他の被許諾者の同一の特許技術分野における合法的な競争に直面する可能性がある。言い換えれば、当該特許の排他性が大幅に低下し、市場競争力が制限されることになる。この点について、被許諾者は注意して考慮する必要がある。同時に、上述の状況に鑑みて、特許開放許諾の使用料もそれに適応して合理的な範囲内に調整しなければならない。

    以上をまとめると、特許開放許諾制度は、中国の現段階の特許成果の転化が難しいという問題の解決に対して積極的な推進作用があり、特許情報交流の促進、特許許諾取引の安全保障及び社会資源の節約等においてこの制度の重要な機能を十分に発揮させることは、イノベーション型国家の建設を加速し、知的財産権の創造、保護及び運用を強化するという重要な目標の実現に有利である。したがって、中国の特許開放許諾制度を更に整備するために、行政、法律、技術、マーケット等の関連分野の従業員は研究及び協力を深く展開して、中国の知的財産権制度の発展方向に真に適合する有効な特許開放許諾実践モデルを模索し、確立する必要がある。

参考文献
[1]央広網(2020年4月23日)
[2]張揚歓 責任規則の視点における特許開放許諾制度 清華法学 2019年,第13巻第5期,第186-208頁
[3]劉娟 開放許諾制度を確立し、特許運用レベルを向上させ 中国知識産権報 2018年9月28日,第1945号,第8版

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