著作権法』改正草案における注目すべき問題
張錫君


 中国の立法機関は2020年4月30日と2020年8月17日にそれぞれ「中華人民共和国著作権法改正案(草案)」(以下、「草案一審稿」という)と「中華人民共和国著作権法改正案(草案二審稿)」(以下、「草案二審稿」という)を公布した。上記2つの『改正案』審議草案稿のホットイシューについて紹介する。

 

著作物の定義について

 

  •  
  •  
  •  
  • 3条 本法にいう作品には、次に掲げる形式で創作される文学、芸術及び自然科学、社会科学、工程技術等の作品が含まれる。

    一、文字による作品
    ……
    九、法律、行政法規に規定されるその他の作品

第3条 本法にいう作品とは、文学、芸術及び科学分野内における独創性を有し、ある種の有形的な形式で複製できる知的活動の成果を指し、下記のものを含む。

 

一、文字による作品

……

  •  

第3条 本法にいう作品とは、文学、芸術及び科学等の分野内において進歩性を有し、一定の形式で表現できる知的成果物を指し、下記のものを含む。

 

一、文字による作品

……

  •  

 

 

 

 

 

 

 

草案一審稿における作品の定義は現行の『著作権法実施条例』と完全に一致している。一方、草案二審稿では、作品の定義を「作品とは、文学、芸術及び科学等の分野において独創性を有し、かつある種の形式で表現できる知的活動の成果を言う」に修正した。ネットワーク技術の急速な発展に伴い、作品の表現形式はすでに伝統的な「ある種の有形的な形式での複製」を突破した。草案二審稿でそれを「一定の形式の表現」に修正したことは、「ある種の有形的な形式での複製」という意味自体の曖昧さを解消しただけでなく、時代の発展への順応の具現でもある。

 

草案二審稿ではさらに、作品類型の一般条項を「法律、行政法規に規定されるその他の作品」から「作品の特徴を満たす他の知的活動の成果」に修正した。これは人民法院が事件審理の過程において具体的な状況に合わせて新たな作品類型を認定することができることを意味する。これは将来現れる可能性のある新しい作品の類型のために余地を残し、法律の遅延性の問題を解決するためであるが、もし認定に統一的な基準が欠ければ、作品の類型の不確定と作品の範囲の無限な拡大を招くことになる。

 

 

二、権利濫用について

草案一審稿の第4条には、著作権者及び著作権に関連する権利者が著作権又は著作権に関連する権利を行使するとき、「権利を濫用して作品の正常な伝達に影響を与えてはならない」との条項、第50条には「著作権の濫用に対して行政処罰を行う」との条項が追加されたが、草案二審稿ではこの2つの条項が削除された。


草案一審稿が公布された後、その中に新たに追加された権利濫用禁止条項が広く注目された。大多数の専門家、学者は「権利濫用禁止」条項の設計が不合理であるとして、削除を提案した。原因はまず、中国では著作権者が著作権を濫用する状況があまり見られなく、且つ現行の著作権法では合理的使用、法定許諾、強制許諾制度がいずれも著作権者の権利濫用の可能性を制限しているからである。次に、濫用行為の判断は難易度が高く、統一的な基準がなく、実践において権利濫用禁止条項自体が濫用される可能性があり、かえって著作権者の正常な権利行使を阻害しがちなためである。

 

三、視聴覚作品の類型と権利の帰属について

 

  •  
  •  
  •  

第3条

本法にいう作品には…。

(六)映画作品及び映画製作に類似する方法により創作された作品

 

第15条

  •  

 第3条

本法にいう作品には…

(六)視聴覚作品

 

第十五条

視聴覚作品の著作権は、製作を組織し、かつ責任を負う視聴覚作品製作者が享有する。但し、脚本、監督、撮影、作詞、作曲などの著作者は、氏名表示権を享有し、且つ視聴覚作品製作者と締結した契約により報酬を受ける権利を有する。

 

第3条

本法にいう作品には、(六)が含まれる。

(六)映画作品、テレビドラマ作品及びその他の視聴覚作品

 

第十七条

視聴覚作品における映画作品、テレビドラマ作品の著作権は、製作を組織し、かつ責任を負うプロデューサーが享有する。但し、脚本、監督、撮影、作詞、作曲などの著作者は、氏名表示権を享有し、且つプロデューサーと締結した契約により報酬を受ける権利を有する。

 

 

 

草案一審稿において、「映画作品及び映画製作に類似する方法により創作された作品」が「視聴覚作品」に修正され、その著作権は製作を組織し、かつ責任を負う視聴覚作品製作者が享有する。この変更により、多くのショートビデオやネットビデオ製作者は、自分の作品が映画と同じ保護を受けると考えていた。

一方、草案二審稿では、「視聴覚作品」を「映画作品、テレビドラマ作品及びその他の視聴覚作品」に修正し、権利帰属に対し区分を行った。

1.映画作品、テレビドラマ作品の著作権は、製作を組織し、かつ責任を負うプロデューサーが享有する。

2.その他の視聴覚作品は、共同作品又は職務作品であるか否かを判断し、権利帰属を確定しなければならない。

視聴覚作品を映画作品、テレビドラマ作品及びその他の視聴覚作品に分け、視聴覚作品の製作者が著作権の帰属を確定する際に、まず自分の作品がどの類型に属するかを確定することが求められる。しかし、現在のビデオの種類は多種多様であり、例えばマイクロ映画が映画作品に属するか否か、テレビドキュメンタリー、バラエティ番組はその他の視聴覚作品であるか、それともテレビドラマ作品に帰属しても良いかなど、どのように分類を行うかは容易なことではない。したがって、この3種類の視聴覚作品の概念の確定は、付随の行政法規によって明確にする必要があり、さもなければ法律適用の困難を招くことになる。

 

四、共同作品について

 

  •  
  •  
  •  
  • 13条
    二人以上のものが共同で創作した作品の著作権は、共同著作者によって共有される。創作に参加していない者は、共同創作者にはなれない。

    共同作品を分割して使用することができる場合、著作者は各自が創作した部分について単独で著作権を享有することができるが、著作権を行使する際に共同作品全体の著作権を侵害してはならない。

第9条

  •  

第13条/第14条

二人以上のものが共同で創作した作品の著作権は、共同著作者によって共有され、協議をして合意の上で行使される。協議で合意できず、且つ正当な理由がない場合は、いずれの当事者もその他の当事者が譲渡、他人に対する専用利用の許諾、質権設定以外の権利を行使することを妨げてはならない。但し、利益はすべての共同著作者に分配しなければならない。創作に参加していない者は、共同創作者にはなれない。

 

共同作品を分割して使用することができる場合、著作者は各自が創作した部分について単独で著作権を享有することができるが、著作権を行使する際に共同作品全体の著作権を侵害してはならない。     

 

 

 

 

現行の『著作権法』は、分割して使用できる共同作品の著作権を行使方法のみについて規定しており、『著作権法実施条例』第9条は、分割できない共同作品の著作権の行使方法について明確にしている。『著作権法』改正草案は実施条例の規定を踏襲しながら、いくつかの変更を加えた。まず、「分割して使用できない」という前提条件を削除し、すなわち、共同作品は分割することができるか否かを区別する必要がなく、いずれも本条項の規定に従って権利を行使すべきである。次に、共同作品の譲渡制限に加えて、「他人に対する専用利用の許諾」と「質権設定」が追加された。それは、著作権の取引において、譲渡以外に、他人に対する専用利用の許諾及び質権設定は同様に権利者の権利に重大な影響を与え、確かに協議して合意する必要があり、いずれの当事者も単独で行使することはできないからである。

 

五、特殊な職務作品について

『著作権法』改正草案の一審稿及び二審稿はいずれも、新聞社、定期刊行物社、通信社、放送局、テレビ局の職員が創作した職務作品を特殊職務作品とみなしている。すなわち、上述の組織の職員が業務を遂行するために創作した作品であれば、氏名表示権以外のその他の著作権はすべて組織に帰属し、かつ主に法人又は非法人組織の物質的・技術的条件を利用して創作したものであることを要件として求めない。

六、賠償制度について

現在の司法実践において、著作権の権利者を含む多くの知的財産権の権利者は訴訟の過程で、自分の実際の損失又は権利侵害者の不法所得を証明するための十分な証拠を提供することが困難であり、最終的に事件は法定賠償の方法で賠償金額を確定してしまうことになる。しかし、現行の『著作権法』の法定賠償額の上限は50万元にすぎない。このような権利侵害コストが低く、権利保護コストが高い現象により、多くの権利者は権利保護を放棄せざるを得ず、権利侵害による損失に耐えなければならない。


『著作権法』改正案には、「権利人の実際の損失または権利侵害人の不法所得の算出が困難である場合は、当該権利許諾使用料の倍数に応じて、賠償金額を確定することが可能」という賠償金額の確定方法が追加された。「故意に著作権又は著作権に関連する権利を侵害し、情状が深刻な場合には、上述の方法により確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償を行うことができる」ことを追加し、懲罰的賠償制度を明確にした。また、法定賠償限度額を50万元から500万元に引き上げ、著作権に対する保護を大きく強化し、権利侵害コストが低く、権利保護コストが高いという問題の解決に役立つ。

 

また、既に施行されている商標法と整合するために、「立証が難しい」という問題に対して、『著作権法』改正案は、「人民法院は賠償金額を確定するために、権利者が既に必要な立証責任を果たしたものの、権利侵害行為に関連する帳簿、資料等が主に権利侵害者によって把握されている場合には、権利侵害者に権利侵害行為に関連する帳簿、資料等の提供を命じることができる。権利侵害者が帳簿、資料等を提供せず、又は虚偽の帳簿、資料等を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参考に賠償金額を確定することができる」とし、この規定は権利者の立証の難易度及びコストを低減し、権利者の合法的権益をよりよく保護することができる。

 

筆者紹介

 

張錫君

2010年、中央民族大学を卒業し、法学及び英語の学士号を取得した。2011年3月、商標部のアシスタントとしてパナウェルに入社した。商標の検索、出願、再審などの業務に豊富な経験を持っている。

 北京朝陽区朝陽門外大街16号中国人寿ビル10階1002-1005室       +86-10-85253778/85253683       mail@panawell.com

版権所有:北京泛華偉業知識産権代理有限公司    技術サポート:漢邦の未来 京ICP备18047873号-1