中国の企業は海外に商品を販売したり、サービスを提供したりする場合、その国で中国語の商標を登録するほか、中国語の商標に対応する外国語の商標を登録する必要がある。同じように、外国企業が中国で事業を展開するには、中国で外国語の商標とその外国語の商標に対応する中国語の商標を登録する必要がある。しかし、現実的には、中国語の商標が自社のグローバル的に使われている外国語商標のイメージと一致しないことや、時には外国語商標の意味を適切に表せないという理由で、中国で中国語の商標を登録、使用したがらない小型外国企業が多い。

外国企業が中国で中国語の商標を登録する必要性について

   中国市場での消費者は中国語を母国語とする中国人である。他の言語に比べて、中国語はより容易に中国人に理解・記憶され、受け入れやすいものである。

    外国語の商標はアルファベットで構成されており、中国人の読み書き習慣と一致していないため、外国語の商標が中国の消費者に理解され、受け入れられるまでにはもっと多くの時間を必要とする。中国は消費者数が膨大で、外国語のレベルのばらつきがあるため、外国語のブランド商品を普及させるには時間がかかる。また、この点を受け入れようが受け入れまいが、中国の消費者は無意識に外国語の商標に中国語名を作り出す傾向がある。

   現在の中国の商標制度は先願主義を採用しており、外国企業は外国語の商標に適切に対応した中国語を選択できなかった場合、当社の販売代理店、オーイーエム(OAM)、取引先あるいは他の人が、代わりに対応の中国語を使用、普及させ、甚いては自分の商標として登録してしまうことがある。これによって外国企業の中国での経営に不要な損失を招いてしまうことになる。

   また、中国語の商標登録出願が遅くなるほど、選択できる中国語が少なくなり、先願商標との類似性を理由に拒絶される可能性が高くなる。


    外国のあるポンプメーカーを例にとって、中国語商標の早めの登録の重要性について説明する。

   このポンプメーカーの外国語商標及び商号は4文字だけで構成され、簡潔明瞭であり、全世界に渡って使用されている。ただし、中国で中国語の商標を登録することは考えられていなかった。その後、中国市場を狙い、中国で独資会社を設立したので、中国の消費者は便宜的に自然と当該会社の中国語商号を直接、その外国語商標に対応する中国語商標として使用するようになった。中国に進出して10年後、このポンプメーカーがついに中国語商標の出願登録を検討し始めたとき、その中国語商号が真っ先に考慮した。しかし、この出願は先願の類似商標のせいで拒絶された。このポンプメーカーは3年間かけて、数数の商標手続きを経て、やっとこの中国語商標の登録に成功した。

    この事例は中国での中国語商標の登録の必要性と緊急性をよく説明している。また、周知のように、アップル(Apple)、ナイキ(Nike)、イケア(IKEA)、カルフール(Carefour)、グーグル(Google)などの国際的に有名な大手ブランドはいずれも中国語の商標を所持している。外国企業は世界範囲で統一した商標を用いて商品やサービスを普及させるので、中国で事業を展開する際に必ずしも中国語の商標を商品やサービスに表記しなければならいわけでもないが、消費者に対する普及活動において良い効果を得るためだけに、販売促進とメディア宣伝で中国語の商標を使用してもよい。

より適切な中国語の商標を選び方

   中国語の商標は普通4文字以内に抑え、読みやすく、覚えやすく、素敵な意味合いを持つことで、消費者の好印象と共感を得られるものが一般的である。

下記のようにして外国語の商標に適切な中国語商標を選ぶことができる

直訳
   外国語の商標あるいはその構成部分に意味があり、しかもよい意味合いを持つ場合、一番簡単な方法は外国語商標の意味を直接中国語に訳して、中国語の商標とすれば良い。例えばアップル(Apple)、マイクロソフト(Microsoft)で直訳である「苹果」、「微软」は典型的な成功例である。
 
意訳
   外国語の商標が中国語の意味を持っているが、中国語に直訳したら読みにくくなることがある。このような場合は、直訳した中国語を修正して、中国人の発音、理解の習慣に合うようにする必要がある。

   マクドナルドの「I’m Loving It」、パンブランドの「BreadTalk」、雑誌の「MoneyTalks」の中国語訳はいずれも意訳の成功モデルである。「I’m Loving it」は「我就喜欢」(意味的には「これこそ、好きだ」)、「BreadTalk」は「面包新语」(意味的には「パンの新しい物語り」、MoneyTalkは「钱经」(意味的には「お金のバイブル」と訳されている。これらの意訳による中国語は、中国の消費者の言語認知により合致している。
 
音訳
   造語語彙は顕著性、識別性が高いため、それを好む外国企業は造語を使用し外国語商標とすることが多い。このような外国語商標は何かの具体的な意味を持たないものが多く、そのためその発音をまねて中国語を作り上げる必要がある。中国語商標の発音が外国語商標のように聞こえるほど、中国の消費者はそれを外国語商標と関連付けやすくなる。

   スーパーマーケットのCarrefourは「家乐福」(「ジャ・ル・フ」と発音する)、スポーツブランドのAdidasは“阿迪达斯”(「ア・ディ・ダ・ス」と発音し、ニックネームは「阿迪」)、NIKEは「耐克」(「ナイ・キ」と発音する)、HONEYWELLは「“霍尼韦尔”」(「ホ・二・ウェル」発音する)と音訳されている。これらの中国語訳は覚えやすく、発音も容易であり、外国語の商標と極めて類似している。

音訳と意訳の組合わせ
    意訳された中国語商標の多くは外国語商標の発音を訳すことができなく、音訳された中国語商標の多くは外国語商標の意味合いを訳すことができないため、2つの訳し方はいずれも完璧とは言えない。外国語商標の発音と意味合いの両方を保つ方法として、音訳と意訳を組み合わせることが考えられる。

    韓国の有名な家庭用ブランドであるLOCK&LOCKの中国語は「楽扣楽扣」である。中国語の発音はLOCK&LOCKとよく似ており、意味も「楽しくロックする」となる。

有名な自動車ブランドである「BMW」は中国語が「宝馬」であり、中国語の発音が「BMW」に似ており、意味が「速く走る馬」(馬は古代の乗り物)となっている。中国の文化背景の中で、中国語の翻訳は外国語商標の発音を具現しながら、その意味も完璧に表現している。

飲み物の大手であるCoca Colaの中国語訳は「可口可楽」で、「美味しくて、楽しく飲める」という意味であり、発音もほぼ外国語と同じである。

 自由訳
   また、外国語の商標は、上記4種類の翻訳方式で翻訳すると、翻訳された中国語が製品と一致しないか、他人に登録されていることがある。 このような場合は、自由訳に頼らざるを得ない。

    例えば、有名なファストフードブランドのPIZZA HUTと化粧品ブランドのCliniqueは、それぞれ「必勝客」、「倩碧」と訳されており、発音の面で外国語の商標とはかなり離れており、外国語の商標の意味も反映していない。 しかし、この2つの中国語訳文は製品又はサービスと密接に関連し、素敵な意味合いを有しており、中国人に受け入れやすく、中国語商標の成功例である。

中国での中国語商標の出願時、外国企業が直面し得る問題

中国語の商標は順調に登録されない可能性
    以上のいずれかの訳し方で確定された中国語の商標は、順調に登録されれば、最も完璧な結果に違いない。しかし、商標の出願量が年々増加するにつれて、順調に登録査定となる可能性は減少している。

中国語商標の登録出願が先行の類似商標により拒絶される可能性
    中国語商標の登録出願が先行商標との類似により拒絶された場合、適切な手続(例えば、異議、無効審判又は3年間の不使用取消手続)により先行商標を除去するか、又は先行商標を購入することは、いずれも中国語商標の出願登録の障害を取り除くための常用方法である。

    GOOGLEの中国語商標「谷歌」を例にすると、米Googleが世界に向けて「谷歌」を「GOOGLE」の中国語として使用しようと発表した翌日に、「谷歌」は中国で他人により、米Googleが登録出願した4つの区分以外の複数の区分に登録出願された。これらの「谷歌」商標の登録出願は明らかに悪意を以って行われたものである。米Googleは『商標法』の適切な手続を通じてこれらの「先行商標」を取り除いた後、「Google」の他の区分における商標登録を成功させた。

  『商標法』の既存の手続による先行商標の除去が最善の選択でない場合、又は除去に成功しなかった場合、購入はもう一つの選択肢である。 先行商標の妨げを除去する他の手続と比べて、先行商標の購入は費用が多いが、時間が節約されるので、先行商標の権利者に譲渡の意思がある場合、先行商標を購入することによって確実に先行商標の障害を除去することができる。

   上記2つの方法のいずれによっても先行商標を除去できない場合、海外企業は別途中国語商標を選択し、その普及に力を入れ、消費者の心の中で外国語商標とその中国語商標とのつながりを再構築し、外国語商標とその他の中国語とのつながりを抹消するしかない。

中国の消費者は海外企業が登録した中国語商標ではなく別の中国語を使用する

    ソニー・エリクソンで起きたことである。ソニーは日本の大手電子製品メーカであり、エリクソンはスウェーデンの携帯電話メーカーである。ソニーとエリクソンは、Sony Ericssonという合弁の移動通信会社を設立し、その携帯ブランドはSony Ericssonとなっており、対応の中国語はソニーとエリクソンとのシンプルな組み合わせでなる“索尼爱立信”である。中国語の商標は漢字5文字で、覚えたり読んだりするのに便利でない。そこで、中国の消費者は、ソニーとエリクソンの2社名称の頭文字を取り、「索愛」というあだ名をつけた。 しかし、ソニー・エリクソンはこの呼称を受け入れることを拒否し、その旨の声明を発行した。

   このような背景の中、携帯電話について商標「索愛」を成功に登録した者がある。ソニー・エリクソン社がこの商標について行政手続を進めたが、芳しい結果が得られなかった。その後、裁判所に訴訟を提起し、上訴までしたが、失敗に終わった。ソニー・エリクソンは中国最高等裁判所に再審を申請したが、成功しなかった。その原因を突き詰めると、関連公衆が「索愛」でソニー・エリクソンを指しているにもかかわらず、ソニー・エリクソンは「索愛」をその商標として受け入れなかったことにある(明確に拒絶した)。

   関連公衆が既にある中国語で外国企業の外国語商標を指している場合、消費者の意思に背かないように、これに乗って中国語商標として登録することをお勧めする。

   もし外国企業が中国語の商標を有しており、且つ消費者に認められる場合、中国での事業はきっと成功するでしょう。中国語の商標をもってない場合は、前述の方法に従って適切な中国語を選択し、早めに商標として登録出願をすることをお勧めする。

筆者紹介:
 裴粉紅
  2006年に対外経済貿易大学を卒業し、修士号を取得した。2012年から2014年までは中国人民大学で民法を研修していた。2016年11月にパナウェル特許事務所に入社。

 

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