蘇晓麗

 

人工知能などの新業態に係る特許出願の審査規則を明確にするために、国家知識産権局は2019年12月31日、「特許審査指南」の改正決定(国家知識産権局第343号公告)を発表し、アルゴリズム又は商業規則及び方法に関する特許出願の審査規則について特別規定を定めた。改正後の指南は2020年2月1日より正式に施行された。本文は主に特許法の保護客体に関する審査規則の改正を紹介し、これらの新たな改正について注意すべき事項とアドバイストを提案する。


一、特許法の保護客体に係る審査規則の改正について


人工知能、「インターネット+」、ビッグデータ及びブロックチェーン等に関する発明特許出願は、一般にアルゴリズム又は商業規則及び方法などの知的活動の規則及び方法の特徴を含む。新たに改正された特許審査指南には、技術的特徴とアルゴリズム特徴又は商業規則及び方法の特徴などとを簡単に切り離してはならず、請求項に記載されている全ての内容を一つの全体として、それに係る技術的手段、解決する技術的問題及び得られた技術的効果を分析しなければならないと明確に規定されている。


今回の改正指南によれば、アルゴリズム又は商業規則に係る発明特許出願については、通常、以下の順序で審査を行うべきである。(1)特許法第25条第1項(2)(法25.1(2))に規定の知的活動の規則及び方法であるか否かを判断する。特許請求の範囲が抽象的なアルゴリズム又は単なる商業規則および方法に関し、またいかなる技術的特徴も含まない場合、当該請求項は知的活動の規則および方法に属すため、特許権の付与が認められない。(2)請求項が全体として知的活動に属しない規則及び方法である場合は、特許法第2条第2項(法2.2)に規定の技術案に該当するか否かの審査を継続する。(3)特許請求の範囲が技術案に属する場合、特許法第22条第2項及び第3項(法22.2と法22.3)に規定の新規性、進歩性を具備するか否かの審査をさらに続ける。


総じて言えば、このタイプのアルゴリズム又は商業規則に係る特許出願については、審査の過程で、まず請求項に係る解決策が特許法によって保護された客体(法25.1(2)及び法2.2)に属するかどうかを判断し、次に新規性と進歩性の審査を行う。特許法25.1(2)に規定されてる知的活動の規則及び方法については、通常、特許請求の範囲に適量の「技術的特徴」を加えることによって、法25.1(2)に規定される特許権を付与してはいけない場合を避けることができる。したがって、以下は、技術案に関する審査(即ち、法2.2)を具体例を示しながら紹介する。


二、技術案の審査について(法2.2)


現在の審査過程で、請求項が技術案に属するかどうかを判断するには、3つの技術要素(すなわち技術問題、技術手段、技術効果)に基づく判断方法を採用している。つまり、請求項に保護を求める案が解決するのは技術問題であり、かつ請求項に自然法則を利用する技術手段が記載されており、これにより自然法則に適合する技術効果が得られると、その請求項に保護を求める案は特許法第2条第2項に規定される技術案に属する。


アルゴリズムの特徴又は商業規則および方法の特徴と、技術的特徴を含む請求項について、それが技術案に属するか否かを判断するには、特許請求の範囲に記載されている全ての特徴を全体的に考慮しなければならない。すなわち、その請求項は、アルゴリズムの特徴又は商業規則および方法の特徴と技術的特徴とを結合することによって、ある技術的問題を解決するための技術的手段を共同で構成し、それに応じた技術的効果を得ることができるかどうかを判断する。改正後の[特許審査指南]において、下記の三つ案例を挙げた。


例1.発明特許出願は、検出対象地域の各経済指標と電気使用指標を統計することにより、当該地域の経済景気指数を評価する、地域の電気使用特徴に基づく経済景気指数分析方法を提出する。請求項の内容は以下の通りである。
[地域の電気使用特性に基づく経済景気指数の分析方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする方法:
検出対象地域の経済的データ及び電力使用データに基づいて、前記検出対象地域の経済景気指数の予備指標を選定し、前記予備指標は、経済指標と電力使用指標を含み、
先行指標、一致指標、および、遅れ指標を含む検出対象地域の経済景気指標体系を確定するクラスタリング分析方法および時差相関分析方法をコンピュータによって実行させるステップと、
前記検出対象地域の経済景気指数を、前記検出対象地域の経済景気指標体系に基づいて合成指数算出法により求める。]
分析:この解決策は経済景気指数の分析と計算方法であり、この方法はコンピュータによって実行され、その処理対象は各種の経済指標、電気使用指標であり、解決された問題は経済動向の判断であり、技術問題を構成しない。採用される手段は経済データと電気使用データに基づいて経済状況を分析するものであり、経済学の規律に従って経済管理手段を採用するのみであり、自然法則の制約を受けないので、技術手段の利用とはなっていない。この案が最終的に経済を評価するための経済景気指数を得ることができるのは、自然法則に適合する技術効果によるものではないので、この解決案は特許法第2条第2項に規定する技術案に属しておらず、特許保護の客体ではない。


例2.発明特許出願は、訓練される画像に対し各級のコンボリューション層にコンボリューション操作と最大プール動作を行った後、さらに、最大プール動作後に得られた特徴画像に対し水平池化動作し、訓練されたCNNモデルが画像カテゴリを識別する際に任意のサイズの識別対象画像を識別することができるようにするコンボリューションニューラルネットワークモデルの訓練方法を提供する。請求項の内容は以下の通りである。
[コンボリューションニューラルネットワークCNNモデルの訓練方法であって、
訓練されるCNNモデルの初期モデルパラメータを取得することであって、前記初期モデルパラメータは、各級のコンボリューション層の初期コンボリューションカーネル、前記各級のコンボリューション層の初期バイアス行列、完全結合された層の初期重み行列、および前記完全結合された層の初期バイアスベクトルを含み、
複数の訓練画像を取得し、
前記各級のコンボリューション層で、前記各級コンボリューション層での初期コンボリューションカーネルと初期バイアス行列を用いて、各訓練画像に対してコンボリューション動作と最大プール動作をそれぞれ行い、各訓練画像の前記各級のコンボリューション層での第1の特徴画像を取得し、
 各訓練画像の少なくとも1つのレベルのコンボリューション層上の第1の特徴画像に対して水平池化操作を行い、各訓練画像の各級のコンボリューション層上の第2の特徴画像を取得し、
各訓練画像の特徴ベクトルを、各級のコンボリューション層上の各訓練画像の第2の特徴画像から決定し、
前記初期重み行列と初期バイアスベクトルに基づいて各特徴ベクトルを処理し、各訓練画像のクラス確率ベクトルを取得し、
前記訓練画像のクラス確率ベクトルおよび各訓練画像の初期クラスに基づいてクラス誤差を計算し;
前記カクラス誤差に基づいて、前記トレーニングされるCNNモデルのモデルパラメータを調整し;
前記調整したモデルパラメータ及び前記複数の訓練画像に基づいて、反復回数が所定回数に達するまで、前記モデルパラメータの調整を継続する過程と;
  反復回数が所定回数に達したときに得られるモデルパラメータを、訓練されたCNNモデルのモデルパラメータとする。]
分析:この解決策はのコンボリューションニューラルネットワークCNNモデルの訓練方法であり、モデル訓練方法の各ステップで処理されるデータがいずれも画像データであることと、各ステップで画像データをどのように処理するかを明らかにし、ニューラルネットワークトレーニングアルゴリズムが画像情報処理と密接に関係することをを示している。この解決策は、CNNモデルが固定サイズの画像しか識別できないとの技術的問題をどのように克服するかということを解決し、様々な畳み込み層で画像に対して異なる処理をし、訓練する手段を採用し、自然法則に従う技術的手段を利用し、訓練されたCNNモデルが任意のサイズの識別対象画像を識別できるとの技術的効果を得る。
したがって、この特許出願に係る解決策は特許法第2条第2項に規定する技術案に属し、特許保護の客体である。

 

例3.特許出願はシェア自転車の利用方法に係るものであり、ユーザの端末装置の位置情報と、対応する所定の距離範囲内にあるシェア自転車の状態情報とを取得することにより、ユーザが、シェア自転車の状態情報に基づいて、利用可能なシェア自転車を確実に見つけて利用することができ、ユーザに駐車の案内を提出することにより、シェア自転車の利用及び管理を容易にし、ユーザの手間を省き、ユーザ体験を向上させる。請求項の内容は以下の通りである。
   [シェア自転車の使用方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする:
  ユーザが端末装置を介して、シェア自転車の利用要求をサーバに送信するステップ1と、
   サーバがユーザの第1位置情報を取得し、前記第1位置情報に対応する所定の距離範囲内にあるシェア自転車の第2位置情報と、これらのシェア自転車の状態情報とを検索し、前記シェア自転車の第2位置情報と状態情報を端末装置に送信するステップ2、
  前記第1位置情報と第2位置情報はGPS信号により取得するものであり、
  ユーザが、端末装置に表示されるシェア自転車の位置情報に基づいて、利用可能な対象シェア自転車を見つけ出すステップ3、
  ユーザが対象シェア自転車の二次元コードを端末装置でスキャンし、サーバの認証を通過したあと、対象シェア自転車の利用権限を取得するステップ4、
  サーバが、運転状況に応じて駐車のための案内をユーザにプッシュ通知し、ユーザが駐車を指定エリアで行った場合、特典料を用いて課金し、そうでない場合、標準料を用いて課金するステップ5、
ユーザが前記案内にしたがって選択し、走行が完了すると、ユーザはシェア自転車のロック動作を行い、シェア自転車はロック状態を検出して走行完了信号をサーバに送信するステップ6。]
分析:この解決策はシェア自転車の利用方法に係るものであり、解決しようとするのは、どのように利用可能なシェア自転車の位置を的確に見つけ、シェア自転車をオープンする技術問題である。この案は終端装置とサーバにおけるコンピュータプログラムを実行することによって、ユーザーのシェア自転車利用行動のコントロールと案内を実現し、位置情報、認証などのデータに対する採集と計算のコントロールを反映し、自然法則に適合する技術手段を利用することで、利用可能なシェア自転車の位置を的確に見つけ、シェア自転車をオープンするなどの技術効果を実現する。したがって、この発明特許出願に係る解決策は特許法第2条第2項に規定する技術案に属し、特許保護の客体である。


上記の例から分かるように、アルゴリズム及び商業規則に係るコンピュータの実施による発明及びソフトウェア発明に関しては、特許請求の範囲に適量の「技術的特徴」を加えることにより、特許法第25条第1項第(2)項に規定される特許権の付与できないことを避ける情況のほか、少なくとも以下の2点に留意する必要がある。


(a)請求項に係るアルゴリズム又は商業規則/方法をある具体的な技術分野に適用することによって、ある具体的な技術問題を解決する。
例えば、前記例2に保護を求めるのは畳み込みニューラルネットワークモデルのトレーニング方法であり、この請求項において、このトレーニング方法の各ステップに処理されるデータがいずれも画像データであることと、各ステップに画像データをどのように処理するかを明らかにし、ニューラルネットワークトレーニングアルゴリズムが画像情報処理領域と密接に関係することを示し、CNNモデルが固定サイズの画像しか識別できないとの技術問題を解決する。逆に、上記請求項に記載の「トレーニング画像」を「トレーニングサンプルデータ」に修正すると、このトレーニング方法の効果は、トレーニングモデルの識別速度又は識別精度を向上させることになり、後の実体審査に、以下の拒絶理由通知書を発行される可能性が高い。
この請求項の解決策は、特定の応用分野に係るものではなく、ここで処理されるトレーニングサンプルの特徴値、モデルの初期パラメータ、及びCNNモデルはいずれも抽象的な汎用データであり、トレーニングサンプルの関連データを利用して数学モデルに対しトレーニングするなどの処理プロセスは、一連の抽象的な数学の方法ステップであり、最後に得られる結果も抽象的な汎用数学モードである。したがって、この方案が解決する問題は実質的にアルゴリズムそのものに対する更なる改善であり、具体的な技術分野に応用されていないから、特許法上の技術問題ではなく、達成する技術効果も特許法上の効果ではないので、全体的に技術案に該当しない。


(b)アルゴリズムの特徴又は商業規則/方法の特徴と技術的特徴との間には相互サポートと相互作用が存在することを請求項に示すこと。
例えば、アルゴリズムの特徴を含む請求項について、アルゴリズムが処理するデータおよびその関連の出力結果は、ある特定のアプリケーション領域において明確な技術的意味を有するデータである。上記例2の畳み込みニューラルネットワークモデルのトレーニング方法を例に挙げれば、このトレーニング方法の各ステップに処理されるデータが、いずれも画像情報処理領域における画像データであることが請求項に明らか記載される。
また、例えば、商業規則又は商業方法の特徴を含む請求項については、商業規則および方法の特徴を実施するには、対応する技術的手段の調整又は改善が必要である。上記例3のシェア自転車の使用方法を例に挙げれば、利用可能なシェア自転車を的確に見つけるために、端末装置と、シェア自転車と、サーバとの間に伝達される情報データ構造および通信方式はいずれも調整を行った。
さらに、特許請求の範囲をより良くサポートするために、有益な技術効果についての説明を明細書で強化することができる。例えば、請求項の態様によって生じる有益な効果が客観的にユーザ体験を向上させる場合、このようなユーザ体験の向上が、本発明を構成する技術的特徴と、アルゴリズム的特徴又は商業的規則および方法の特徴とが、どのように機能的に相互にサポートし、密接に結合することによって、共同でもたらすか、生むことを明細書に説明することができる。


三、まとめ及び提案


特許審査指南の最新改正から、中国国家知識産権局は新技術の発展のニーズに適応するように、人工知能、「インターネット+」、ビッグデータ及びブロックチェーンなどの新業態、新分野におけるアルゴリズムと商業規則が含まれる特許出願への保護を強化している。このようなコンピュータを利用して実施されるアルゴリズム及び商業規則に関する特許出願については、出願書類の作成で以下の提案を提供する。


*作成時には、アルゴリズム又は商業規則/方法を、スマートドライブ領域、画像認識領域、ビデオ圧縮領域などのような「具体的な技術分野」に適用することによって、具体的な技術問題の解決を図る。汎用コンピュータのみを介して実行される抽象的アルゴリズム又は単純商業規則はダメである。
*作成時には、アルゴリズム又は商業規則/方法を「技術的特徴」と結合する。例えばアルゴリズムの特徴を含む場合、アルゴリズムの少なくとも1つの入力パラメータおよびその関連出力結果の定義は、特定の技術分野における具体的なデータに対応していなければならない。また、例えば、商業規則及び方法の特徴を含む場合、この商業規則及び方法の特徴を実施するには、対応する技術手段の調整又は改善が必要であるか、この調整又は改善に依存する。
*作成時には、「技術効果」に対する説明を強化し、特に明細書において、アルゴリズムの特徴又は商業規則/方法の特徴がどうやって技術的特徴と機能的に相互サポートと相互作用することで、ある技術問題を共同で解決し、相応の技術効果を得る過程を明記すべきである。

 

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